みつめてナイト考察 カルノー=愚者説


※以下の考察はみつめてナイトのネタバレは勿論、バーニングヒーローズ、天知未来がいる街シリーズのネタバレが必須となっています。(回避不能です)
 これらの作品が未見で、興味をもっておられる方はご注意下さい。


●ところでカルノーって誰?

彼の名前が出てくるのはセーラとプリシラのシナリオだけなので、もしかして、カルノーについて知らないという方もいるかも知れません。
更に、セーラシナリオ片方だけだと、カルノーの結末は分かりませんし、プリシラシナリオだけだと、失踪前のカルノーについてごく僅かの情報しか得られません。
他のヒロイン目的の場合、この2人と全く関わらずにクリアする可能性もありますし、ある意味、隠れキャラといえる存在です。

ただ、どのヒロイン攻略中であっても、遭遇する機会があります。
それはサーカスの猛獣退治でホワイトタイガーに勝利した時です。 その時に現れる慇懃無礼な台詞を残して去る謎の道化師の正体が「彼」です。


●カルノーのプロフィール

本名、カルノー・ピクシス。
ドルファンで国王に次ぐ第二位の地位にいる怪老アナベル・ピクシス卿の傍系の孫で、セーラの実の兄です。
ドルファン王妃のエリス(恐らく故人)がアナベルの娘なので、プリシラとは従兄妹の関係にあり、元恋人、元婚約者でもあります。
彼は少なくとも大学で考古学の研究をしているとセーラに想像させる位には頭が良かったようです。 (NTT出版の攻略本によると"聡明"だそうです)
優男の美男子で女性には人気があり、ブラコンのセーラ(小さい頃は兄と結婚するのが夢だった)はいつも嫉妬していた模様。
また、彼自身もかなりのシスコンで、セーラの事を誰より大切に思っています。
原因は作中では明らかにされていませんが、幼い頃に父親(多分母親も)をなくしています。
ただ、父親は生前から愛情には薄かったようで、セーラに毎年クリスマスプレゼントを置いていたのはカルノー(失踪後はグスタフ)でした。
家にいた頃、インコのメビウスとドーベルマンのシリウスを飼っていました。 特にシリウスは彼以外になつきません。

3年前(セーラ12歳)のクリスマス・イヴに突然の失踪。 理由は祖父、アナベルとの確執でした。
アナベルにとってカルノーとプリシラ王女との婚約は、一族が発言力を高める上で好都合のはずだったのですが、
カルノーが左派思想に傾倒している事を知り、危険分子として切り捨てたのです。
その結果、カルノーは追放され、かつてシベリア特殊部隊スペツナズに所属していたピクシス家執事グスタフの手引きによってシベリアに亡命、
そこでカルノー・バリアニコフ(通称・極寒のカルノー)に改名、スペツナズの一員となります。

その後、ドルファン城内部について詳しいという理由から、城に隠されたダイヤモンド鉱山の位置を示す古地図を手に入れるという作戦の工作員に抜擢され、
他の工作員らと共にパリャールヌイ・サーカス一座として難なく入国。 道化師の姿に身を隠し、サーカス公演の裏で潜入活動を始めます。
(猛獣を逃がし混乱を起こしたのも、その活動の一環と考えられます。 ちなみに同業者のライズだけはサーカス団の正体に気づいていた模様。)
これと同時に、クリスマスにプレゼントを置いていったり、バルコニーから落ちたセーラを支えたり、 クラシスの花の調合代を出したり…など、
気がかりだったセーラの様子を見に来ていたようです。

そんな中、ドルファン城にサーカス団が招待されるという絶好の機会が訪れ、古地図の奪取と同時に、もう一人の気がかり、
元婚約者のプリシラをシベリアに連れて行く計画を実行に移します。
この先は東洋人傭兵であるプレイヤーの選択によるのですが、東洋人(場合によってはグスタフが協力)によって計画が阻止され他の仲間も捕まって作戦失敗、
サーカステントに自ら火をつけ中に姿を消した後、行方不明という結末と、プリシラを連れ去った後、東洋人が救出に失敗、
ウィークリートピックスによると工作員全員逮捕ですが、ドルファン上層部による揉み消しも考えられるので真相は全く不明という結末に分かれます。
ちなみに前者の場合、その後のプリシラのお礼の訪問で、彼は見た目よりしぶといから大丈夫というフォローがあり、
続編があれば生きていたと言う展開も充分あったのではとも受け取れます。

…以上、失踪の真相〜ドルファン潜入の理由までがG'sの裏設定、それ以外の情報は本編の会話、イベントの断片的な情報を繋ぎ合わせたものです。
この設定の多さだけでも、他のサブキャラ(例えばジョアン、メッセニ、ロバートなど)と比べて、かなり特別視されている感じがあります。
極論するとセーラはカルノーのストーリーテラーという側面すら見えてきます。


●田村作品における類似キャラの扱い

田村作品には、違う作品間で非常に似た設定を持つキャラが良く登場します。
意地悪い言い方をすれば使い回しなのですが、手を抜くために同じ系統のキャラを使ったというよりは、
わざと分かるように配置したと思われる証拠がいくつもあります。 (これについては長くなるので、またいつか)
田村氏の意図はともかく、以降ではそういうものという前提で話を進めていきます。


●リチア・アイリス=セーラ・プリシラ説

カルノー=愚者説を説明する前に抑えておきたい仮説があります。
それは、リチア・アイリス=セーラ・プリシラ説です。
これはバーニングヒーローズの元ネタの所で簡単に紹介済みですが、改めて紹介しておこうと思います。

これは、匿名希望様からの情報提供によるもので、
数多く教えて頂いた、みつめてナイトとバーニングヒーローズの共通点の一つです。
(バーニングヒーローズって何?という方はこちらをご覧下さい)

具体的な説明をする前に、バーニングを未プレイの方にリチアとアイリスがどんなキャラなのかを説明しておきます。

リチア

主人公の一人、ロウガという男の義理の妹(幼女?)です。
病弱で死の病に冒されていますが、両親は既におらず、兄と二人で病気を治す方法を探す旅をしています。

ドクター・ヤブと言う謎の医者にリチアの病気を治すにはアクアクリンが必要だと言われて、ロウガは主人公の一人リュウとアクアクリンをかけて争うのですが、
負けた場合(リュウシナリオ)、リチアは兄の帰りを待つ事なく病死。 勝っても(恐らく黒仮面の策略によって)錯乱したリチアを殺してしまう展開になります。

アイリス

主人公の一人、メビウスの主人です。
高飛車で過激な性格、行動目的は目立ってヒロインになる事(?)。
無抵抗な従者のメビウスを殴る蹴るは当たり前、大鎧を着た女の子を叩きのめした後、海に突き落としたり、
むしゃくしゃした腹いせに親切を装って嘘を教え、その人物が落とした拾い物を着服して運がいいと言い放ちます。

元々は「商の都」という都市の城主、セレニスの娘。 立派なご令嬢です。
メビウスとは幼なじみで、小さい頃に城のバルコニーで守ってもらう約束と結婚する約束をしています。
この頃は性格が良かったのですが、ある事件によってアイリスの運命が大きく変わってしまいます。
それは「死の商人」という組織による城の乗っ取りです。
その結果、セレニスは城から追放され、アイリスは新たな城主セルの元に残されました。
(この間、どういうことがあったのかの描写は全くありません。 そもそもメビウス編は謎が多いのです。)
数年後セレニスは病死、どういう経緯か性格が豹変したアイリスと従者になったメビウスが旅をしている冒頭に繋がります。

ついでに主人公のロウガ、メビウスについても説明しておきます。

ロウガ

裏主人公の一人。
義理の妹のリチアを序盤から愛していると公言する真性シスコンです。
(彼は全てがリチアのためで、アクアクリンで一つの街の人間を救うか、リチア一人を救うかという選択で、迷わず後者を選びました。)
最後はリチアの意思に導かれてデスワイズ(地球人の怨念)と対立します。

メビウス

裏主人公の一人でアイリスの従者。
殴られても蹴られても懲りずにアイリスに突っ込みを入れる、ある意味強者です。
(攻略本の記述によると、弱者に見えて実はかなりの凄腕とのこと。)
敵幹部に誘惑されるほどルックスが良く、女性には優しく頭も切れるのですが、アイリスの従者という事もあってどこかコミカルな印象。
死の商人の代表ドロール博士の甥の地球人で、数少ないシステムDの秘密(デスワイズの正体)を知る人物ですが、
アイリスを守るという約束のため、最後は人間(アストラリアン)として、ドロール博士やデスワイズと対立する決意を固めます。

リチア・アイリス、セーラ・プリシラに関しては、以下のような共通点が見えてきます。

アイリス 過激な性格 メビウスはペットらしい…
元商の都の城主セレニスの娘
バルコニーでメビウスに守ると約束された
(商の都での回想イベント)
プリシラ 過激な性格 カルノーは元婚約者だがあっさり振った
ドルファンの王女
オープニング(1枚絵)とエンディングは共にバルコニー
CDドラマの絵にもバルコニーにいるものがある
メビウスの主人 元令嬢
バルコニーでメビウスに守ると約束された
(商の都での回想イベント)
セーラ メビウスの飼い主 ピクシス家の令嬢
バルコニーで手を振るイベント バルコニーで自殺未遂
好きな男性:守ってくれる人
リチア 主人公の1人ロウガの妹 ブラコン
兄は事情があって出て行ったため寂しい思いをしている
重い病気で外に出る事が出来ない
アクアクリンという石によって蘇生
カルノーの妹 ブラコン
兄は事情があって出て行ったため寂しい思いをしている
重度の心房中隔欠損症により、外出もままならない
誕生石はアクアマリン クラシスの花によって救われる

アイリスとセーラは二人のキャラの属性が混じっているのでやや複雑な図になっています。
カルノー=愚者説において重要なのは、リチアにはロウガ、アイリスにはメビウスが関係しているという事と、アイリス、セーラに2人の属性が混じっている事です。


●ロウガ・メビウス=カルノー・メビウス・シリウス説

更に、匿名希望様から
・バーニングのメビウス=インコのメビウス (名前つながり)
・ロウガ=カルノー (シスコンつながり)
では?というご意見もありました。
また、インコのメビウスがあまりに呆気なく死んでしまう事から、バーニングでは脚本のメビウスに対して少なからぬ思い入れが感じられたのに、
何故このような結末にしたのか考えていただきたいと言うご提案がありました。

私はこの時点ではメビウスシナリオが終わってなかったので、割合、適当なお返事で終わってしまったのですが、
シナリオを終えた後で再考察しても、謎の部分が多かったのです。

その後、犬のシリウス繋がりで「伝説のオウガバトル」というゲームに「天狼のシリウス」という狼男がいたことを思い出し、
バーニングの主人公名に竜、虎など、動物名がモチーフと思われる名前が多い事から、ロウガ=狼牙(狼餓?)ではと考えていた事もあって、
ロウガとシリウスにも何か関係があるのではと思うようになりました。
調べてみると、シリウスとはおおいぬ座α星との事で、もろに犬なんですが、中国語では天狼と言うらしいです。
ここから、ロウガ=シリウス説が出来ました。
しかし、そうするとカルノーの位置付けが宙に浮いてしまいます。
考えてみると、2匹のペットはカルノーがセーラの為に置いていった存在とも言え、いわば分身です。 (双葉社の攻略本にメビウスは分身とあり)
なので、本体はカルノーで、リチア・アイリス=セーラ・プリシラ説から、これらが相互に対応しているのではという推測、
更にアイリス、セーラのように複数のイメージを重ねる事が許されるなら、カルノーはバーニングのロウガとメビウスのイメージを併せ持った存在であり、
2匹のペットはそれぞれのイメージを持った分身なのではという仮説を思いついたのです。

この相関を表した表は少々複雑ですが、以下のようになります。

メビウス 主人公の1人
名前が全く同じ
メビウス セーラの飼っているインコ (元はカルノーが飼っていた)
名前が全く同じ (インコにしては大仰な名前)
素顔が似ている 口ぶりも?
バルコニーでアイリスを守ると約束する
(商の都での回想イベント)
「コールミーザピエロ」(曲名)など道化師を暗示する要素多数
アイリスに結構酷い扱い しかし、頑丈なので大丈夫らしい
両親の所在が不明
親類との確執がある (叔父のドロールとは決別)
同名の数学者がいる
カルノー 素顔が似ている 口ぶりも?
上のインコが発端の自殺未遂で、バルコニーから落ちた
セーラを受け止める ギャラリー名は「セーラを守る影」
シベリアサーカスの道化師
プリシラに結構酷い扱い しかし、しぶといので大丈夫らしい
両親の所在が不明 (父親のみ死去を確認)
親類との確執がある (祖父のアナベルに追放)
同名の数学者がいる
ロウガ リチアの兄 重度のシスコン
リチアにアクアクリンを持ち帰る
セーラの兄 重度のシスコン
クラシスの花の薬剤化に協力
主人公の1人
「狼牙」あるいは「狼餓」などと書ける
リチアに危害を与えるものは容赦しない
シリウス
セーラの飼っている犬 (元はカルノーが飼っていた)
おおいぬ座α星 中国語で「天狼」
セーラに近づく侵入者には容赦ない

メビウス=カルノー部分について説明を補足すると、

・カルノーの道化師時の柔らかな物腰、慇懃無礼な口ぶりがメビウスに似ている。
・インコの"メビウス"の死が発端でセーラが"バルコニー"から自殺未遂を図り、東洋人が説得に失敗して下に落ちた時、セーラを下で受け止めるのがカルノー。
 そのイベント絵の名前が「セーラを"守る"影」。
・プリシラのイベント、一騎打ち後に仮面の一部が壊れ素顔が見えます。 顔立ちは端正な美男子。 再検証するとメビウスに確かに似ています。

以上から、かなり確率が高いのではという感触を得ました。
カルノー=愚者説で重要なのはメビウスとカルノーの共通点の部分です。


●メビウス=カルノー=ピエロ説

カルノーといえば道化師、つまりピエロです。 (これについてはそのまんまなので省略します。)

また、メビウス=カルノー説を補強する過程で、匿名希望様からメビウスシナリオにピエロを暗示する記号が多数埋め込まれているという情報提供を頂きました。
前の表のピエロを暗示させる要素という部分ですが、以下に列挙してみます。

・メビウス編で多く流れるBGM「コールミーザ・ピエロ」
・アイリスとメビウス、死の商人のパレットパープルとマゼピエラ(ピエロの怪人)のやりとりが対照的に描かれる(両者どつかれ、飛ばされる)場面がある。

また、中世ヨーロッパで道化師という存在は宮廷においては独特で、君主に対して無礼な事をいっても許された(Wikipedia)…との事で、
メビウスとアイリスの関係を連想させます。

以上から、メビウスもまたピエロのイメージを持っていたのではという推論が出て来ます。


●道化師=愚者?

私は道化師と言えば、トランプのジョーカーとその元になった(と、その時は思っていましたが、違うようです)
タロットの「愚者」が思いついたので、匿名希望様に参考程度にその事をご紹介しました。
すると、匿名希望様の方から、特にタロットの方がどうも関連性が深いのではないかというご報告を多数頂き、ここから道化師=愚者説が生まれました。

ここで「愚者」とは具体的に何かをはっきりさせなければなりませんので、一旦、大アルカナの話に戻ります。
Wikipediaの愚者のページはこちら。  愚者の絵の中央にいる男は崖に一歩踏み出そうとしている旅人だそうです。
大アルカナに描かれた絵は一人の人間が全22枚の旅を通して世界の真理に達する様子を表していて、(但し異説あり)
その最初のカードは目的に対して無限の可能性を秘めた、恐れを知らない若者を象徴しているそうです。
(そのせいかは分かりませんが、最強のカードともされているそうです)
悪い面としては文字通りの愚かさ、愚考、計画性のなさなど…とのこと。
公式にこの男が道化師であるというものはないのですが、愚者という言葉のイメージから、道化師と関連付けられる事が多いとの事です。
(Wikipediaの記述にも愚者(道化師)とあります)

…ただ、この部分は若干根拠として弱いかも知れないので、以降では別ルートから根拠を探ってみようと思います。
(考察の順序が変わるので、以降は匿名希望様から頂いた情報がごちゃ混ぜになっています。)


●田村氏の「愚者」への思い入れ?

「天知未来がいる街」最終巻の副題が愚者(ザ・フール)となっています。

愚者のアルカナ使いは葉山拓人という男です。
彼は幼稚園児の時、園児バスの爆破テロにあいました。
その時、好きだった保育士の先生に命を救われ、犯人の行方を追い続けています。
その復讐の為に体を鍛え、自衛隊にも入隊しました。

そして未来達とは別ルートで犯人の正体を突き止め、恩師の仇を討つのですが、
手段を選ばず、法すら無視するそのやり方、ひたすらまっすぐに犯人を追い続ける姿はまさに愚者といえます。
結果、事件解決後も警察から逃げ続けなければならなくなるのですが、
未来達が絶体絶命のピンチから救われたのもまた、彼の愚挙の結果によるものでした。
作中における彼の役割は裏の主人公であり、ダークヒーローだと思っています。
(3巻は未来編、葉山編が交互に展開し、最終章で収束する構成です。(1〜2巻はまた違う構成))

蛇足になりますが、彼のアルカナは「些細な過ちを誘う」というものです。
これをつまらない能力と思うなかれ。 戦場において最も恐ろしいのは、この些細な失敗とも言えるのです。
恐らく、星の全開モードを除けば、作中における最強のアルカナです。

しかし、No.0の愚者が最終巻に来るというのは不自然に感じないでしょうか。
普通は最後のNo21世界とか、順当に大アルカナの番号順とかになると思います。
また、2〜3巻に西條綾華というライズ系の少女とその義父・将貴というキャラが出てくるのですが、
思わせぶりな登場に対して明らかに活躍が少なく、あと1巻分出せたら、この親子の話をやりたかった事が窺えます。
(あとがき漫画にもその雰囲気があります)
ライズ似の綾華の読者受けは良かったはずで、商業的な判断だとこちらを出すべきでしょう。

しかし、最終巻で田村氏が描いたのは、不器用で愚者(バカ)な葉山でした。
この事からも、田村氏の「愚者」への強い思い入れが感じられるのです。


●「愚者」と「明日を夢見て」というテーマの親和性

では、何故よりによって「愚者」なのかについて。
田村氏は電プレの冬馬・ライズ対談の最後にこんな文章を書かれています。

このゲームの登場人物はみんな、繰り返す日常から抜け出そうともがき、努力しています。
そして主人公との出会いは、その"きっかけ"となるわけです。
そんな彼らが描く人間ドラマ……それがこのゲームの真のテーマ『明日を夢見て』なんです。

繰り返す日常から抜け出そうともがき、努力するもの……それは賢者などではなく、まさに愚者(人間)です。
「愚者」とは無限の可能性を秘めながらも、愚行を繰り返すもの。
これは『明日を夢見て』というテーマと綺麗に合致しています。
つまり、田村氏が愚者を特別視している理由はここにあるのではと推測出来ます。


●メビウスとカルノーは愚者なのか?

葉山との対比からメビウスとカルノーを検証してみます。 比較するのは以下の点について。

1 計画性のなさ
2 目的のために手段を選ばない
3 戦闘力の高さ
4 裏主人公

メビウスの場合

1 頭が良い割に目的が二転三転している。
2 アイリスの為ならどんな事でも。
3 バーニングドラゴンを使うバーニングヒーローズの1人。 設定によると凄腕です。
4 文字通りの裏主人公です。 (リバーシブルシナリオシステム:表と裏の主人公が各4人います)

カルノーの場合

1 聡明な割に周りが見えていない。 (NTT出版の攻略本の記述)
  無計画にアナベルに刃向かった挙句、先手を打たれてシベリアに亡命する羽目に。
  (上手く立ち回れば、プリシラと結婚後、国王権力を利用する手段もあったはずなのに…)
2 明らかに非合法活動をしてます。
3 東洋人が逃げようとすると背後からのスペツナズナイフの一撃で倒されます。 (初撃で助かったのはピコかグスタフのお陰です)
  一騎討ち時の戦闘力は八騎将のゼールビス、ライズと同程度の印象(一瞬で必殺技を出すなど)ですが、
  NTT版攻略本の情報によると、レベルはなんとデュノス(LV67)に次ぐ第2位(LV60)。 (ミハエルとライズはLV55、ジョアンが52)
  また、亡命先で特殊部隊に難なく入隊している事などからも、ただの貴族の長男坊ではない事が窺えます。
4 これについては次項で

更にメビウスは

・愚者は「風」を象徴→メビウスの属性は静かなる白=風属性です
・愚者は相反する2つの属性を併せ持つ→メビウスは弱者と凄腕の両面を持っています

カルノーは

・テーマ曲「北風の執念」 インコ=鳥=風属性?
・犬(シリウス)と関係がある

というアルカナ本来の意味との共通点もあります。
この2人はある種の完璧超人なのですが、その割にどこか抜けている部分があるのも共通点といえると思います。
(ちなみにカルノーは上のシベリア亡命の他、王女をさらった後、真っ先に疑われるはずのサーカステントに逃げ込むというポカをやっています。)


●メビウス=カルノー=葉山=愚者説から裏主人公説へ

以上から、メビウス=カルノー=葉山=愚者説が浮かび上がって来ます。
また、公式サイトの最終更新のトップ絵が「謎の道化師登場」 つまり、カルノーです。
何故ここでカルノーなのか、私は当時、少し不思議に思っていましたが、何らかの思い入れがあったとすると不思議ではありません。
一方、メビウスと葉山の役回りを見ると、裏主人公・ダークヒーローとしての側面がありますが、カルノーに関しては若干薄いように感じられます。
(こと、セーラに関しては間違いなくヒーローなんですが)
そこで、以降ではダークヒーローという側面から、カルノーについて再検証してみます。


●ダークヒーローが抱いた左派思想?

潜入先がシベリアで左派思想というと、現実では社会主義がすぐに連想されます。
ソビエト連邦などの社会主義体制は冷戦の崩壊によって内在していた矛盾点が明らかになったという部分があったと思います。
ただ、罪の部分があれば、功の部分もあり、富の再分配と言う理念自体は否定されるべきものではないと思います。
(その富の管理を特定の人間に委ねるしかなかったという所に、構造的な問題があるのですが…)
その存在によって資本主義国にも弱者救済(福祉など)のシステムを組み込まざるを得なくなったという側面もあったと思います。

みつめてナイトの話に戻ると、ドルファンの政情は決して明るいものではありません。
先進国のスィーズランドはもちろん、周辺国のハンガリア、ゲルタニアも民主化を遂げており、時代に取り残された形になっています。
しかも国王の発言権は既になく、国の実権はカルノーの祖父、アナベルら有力貴族に牛耳られており、ザクロイドに代表されるような不正がまかり通っています。
(外国人を入れるという制度はある意味先進的でしたが、僅か3年で撤廃になっています)
騎士団の貴族化による腐敗、国防力の低下も進み、(恐らくつまらない理由から)重火器を導入するのも遅れました。

カルノー=ダークヒーローと仮定した上で考えてみると、彼はこの状況が決して好ましいものではないと考えたはずです。
そこで彼が見つけた封建主義のアンチテーゼ、それが社会主義だったのではないでしょうか?
勿論、これは絶対の正義ではありません。 (何しろ、ダークヒーローですから。)
つまり、末期症状にあるドルファンを立て直すには、それ相応の劇薬が必要…という事です。

しかし、この思惑は祖父アナベルの手によって砕かれてしまいます。
身内には手を出さないだろうという甘さがあったのか、厳重に隠していたものの、アナベルの方が一枚上手だったかは分かりませんが、とにかく失敗したのです。
その後、シベリアに渡った彼は特殊部隊に入り、再起の機会を待つ事になりますが、
一番に守るべき存在であったはずのセーラとは理由も告げず離れ離れになり、悲しませる結果になってしまうのです。

また、直接の根拠は無いですが、アナベルとの確執は以前からあったのではないかとも思えます。
例えば家督問題(カルノー家は傍系)、両親の死(?)に関して、自宅軟禁に近いセーラの扱い、プリシラの出生の秘密に関してなど…。 (大穴で○○は彼の○○とか)
左派思想は右派(体制派)の親玉であるアナベルへの反発と言う側面があった可能性も充分あると思います。


●王女誘拐イベントを再検証する

プリシラはエンディングで自分が本当の王の娘でない事を告白しますが、この情報はどうやってもたらされたのでしょうか…?
取り巻きは絶対に口外しないか(アナベルに報復されます)、全く知らないかのいずれかだと思いますので、プリシラがこの情報を知るというのは結構難しいはずです。
ただ、左派勢力のヴァネッサが偽王女情報を流布しているので、不確定情報としては得られます。
それを知ったプリシラが王に直接確認したという可能性もないではありません。
しかし、一番確率が高いのは、元婚約者のカルノーからではなかったかと私は推測しています。
(そもそもヴァネッサに情報を流したのもカルノーではないでしょうか? あるいは情報を知った後、プリシラの依頼で自由に動ける彼が真偽を確かめたとか)

だとすると、カルノーがプリシラをさらった本当の理由とは、王室から彼女を救い出す為だったのではないでしょうか。
カルノーはプリシラの地(本音)を知っており、偽王女を演じる事が負担である事を知っています。
また、彼女の不幸の始まりは自分の祖父によるもので、責任も感じています。
だから、少々荒っぽい形ではありましたが、プリシラを連れて行こうとしたのではないでしょうか。
ナイフで脅したのは、近くに東洋人もいて、ゆっくり話をしている状況でもなかったからです。

…では、もう一方のプリシラの思惑について。
電撃G'sマガジンの裏設定によると、

プリシラのほうは、周りに年の近い男性がほかにいなかったことと、カルノーがそこそこ美形だったことから、
「ま、付き合ってあげてもいいかな」という程度の感覚で付き合っていた。
だから国外追放されて自分のもとを去っていった男にいつまでも執着したりはしなかった。


…そうです。 しかし、カルノーの方はそうではありませんでした。

一方、カルノーのほうはプリシラにベタ惚れ状態だったので、シベリアに逃れたあとも彼女のことをずっと想っていた。

…そうです。
彼はプリシラとセーラのために3年間必死に活動を続けてきてようやくドルファンに潜入するチャンスを得、
目的の古地図の奪取と同時に危険を承知の上でプリシラを連れ出したのですが、…どうやら報われなかったようです。


●カルノーの作劇上の役割について

以上、カルノーは裏主人公とも言うべき存在で、何らかの役割を担われていたのではという推測になります。
ただ、本編で裏主人公と言えるほどの活躍があったとは言い難いのは確かです。 (Rでは活躍していたみたいですけど)
これについては、予定されていたみつめてナイト2に繋がっていたのではと考えています。
つまり、実はカルノーは生きていた…と言う展開になっていたのではないかと。
(改めて考えてみると、プリシラのフォローにしても、シナリオの現実的な傾向からいって、ただの気休めで配置したとは思えませんし)
その上で、もしかすると何らかの役割を果たしていたのではないでしょうか。


この考察掲載後、web拍手で興味深い説を教えていただきました。 詳細は東洋人・ノエル愚者説へ。


※協力者様に感謝いたします。 ありがとうございました。


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