SRPG最初の作品は「ファイアーエムブレム 暗黒竜と光の剣」(以下FE)と言われています。(細かい事を言えば諸説あるようですが)
ただ、FEの広告に「ロールプレイングシミュレーションの幕開け」という煽り文があった事からも明らかですが、本来意図されていたジャンル名は「RSLG」です。
にも拘らず、SRPGという名前の方が世間に浸透したのは、RPGがSLGよりメジャーであり、目を引きやすかったというゲーム雑誌側の事情があったようです。
実際、FEは「RPGのシステムを採用したSLG」(以下RPSLGと表記)であり、「SLGのシステムを採用したRPG」(以下SLRPGと表記)ではありません。
一方でSRPGの文字通りの意味であるSLRPGも生まれ、現在では多くのタイトルが存在しています。
両者は一見同じに見え、一般的には同じSRPGという括りをされているのですが、ある些細な違いによってゲームデザインに大きな違いがあります。
その些細な違いとは経験値の無限稼ぎが出来るか否かです。
SLRPGとは無限稼ぎが可能であり、フリーバトル等で手間さえ掛ければ、いくらでもキャラを強化することが出来る種類のものです。
「難関にはレベルを上げて対処する」事を攻略手段としており、簡単に言うとRPGの戦闘パートにSLGの戦闘システムを採用したものです。
SLRPGの場合、ユーザーの任意によって難易度をある程度自由に変えられるため、バランス調整はRPSLGほど厳しく問われません。
ライト系と呼ばれるものの多くや、シャイニングフォース、同じFEでもFE外伝などはこちらに属します。
一方、RPSLGとはフリーバトルが無いなど、ユニットのレベルに一定の制限がかけられるものです。
SLGには戦略級(信長の野望・三国志など)と戦術級(大戦略など)の2系統がありますが、RPSLGの多くは戦術級の亜流となっています。※1
戦術級SLGのゲーム性とは、「制限された条件下で目的を完遂する事」になるのですが、
条件自体を(無限稼ぎなどで)改変するとSLGのゲーム性自体を否定する事になるため、制限を付けるという訳です。
こちらに属するのはFEやタクティクス・オウガ(以下TO)などです。
では、今回問題となるサモンナイトはどちらに属するのでしょうか?
実はサモンナイトは両方の面を併せ持った作品です。
まず、SLRPGとしての側面から説明すると、言うまでもないですが、フリーバトル、無限界廊による稼ぎがこれに当たります。
ブレイブクリアに拘らなければ、後述のシステムを一切気にする事なく、RPGのようにプレイする事が可能になっています。
ライト系SRPGの代表というような印象は、(ビジュアル面を除けば)このような側面から来ています。
次に、RPSLGとしての側面です。
これは3以降の公式制限システム、「ブレイブクリア」システムが該当します。
更に実は1や2でもフリーバトルの回数を最小にすれば、「適度に難しいが不可能ではない」というバランスで組まれていました。
実際制限付きでプレイしてみると良く分かるのですが、明らかにフリーバトルの稼ぎが前提のバランスではありません。
もしSLRPG路線を行くのであれば、1→2の横斬り範囲の改定や、弓の射程変更等の地味なバランス調整も殆ど不用なのです。※2
ところで、上記の説明のある部分で少々苦しい説明があった事にお気づきでしょうか?
それは、"RPSLGがユニットのレベルに一定の制限をかける事によってSLGとしてのバランスを保っている"と言う部分です。
実を言うと、無限稼ぎがSLGの根本否定になる事は確かでも 、制限をかければ影響が全く無くなると言うものでもないのです。
ユニットの成長のさせ方にユーザーの個性が出る以上、各章マップの初期条件に大なり小なり差異が生まれて来るのは当然であり、
それは多くの場合、章を進むに従って表面化してきます。 これはかなり昔から指摘されていたRPSLG共通の難問です。※3
例えばFEの場合、マップ毎に出てくる敵兵数が限られており、経験値稼ぎに制限をかける事でバランスを取っていました。
闘技場という施設で戦えば経験値とお金が無限に得られるものの、相性の悪い相手が出てくると簡単に殺されてしまうリスクがありました。※4
ただ、このシステムには潜在的な問題があり、不慣れなユーザーが序〜中盤の経験値稼ぎを省略した・成長しないユニットに経験値を集中しすぎた等の理由により、
終盤になってみると相対的なマップ難易度が激増し、レベルアップ手段もないため実質的にそのデータではクリア不能になると言う現象が起きがちでした。
「限られた経験値をどのユニットに振り分けるか」はFEのゲーム性の肝であり、同時にアキレス腱でもあったのです。※5
TOの場合、トレーニングと言う仲間同士の模擬戦闘やランダムに発生するフリーバトルよって無限に経験値を得られるのですが、
ユニットのレベルが攻撃対象と同等以上になると急激な修正が入り、まともな経験値を得られないようにする事で制限を付けていました。※6
しかし、手間暇さえかければ無限稼ぎは可能であり、メーカー側が意図する難易度でプレイするかどうかは結局プレイヤーの判断に委ねられていました。※7
また、マップの規定レベルより出撃ユニットのレベルによって、敵のレベルも3レベルの範囲内ですが上下するという仕様がありました。
これはSLGとして敵味方の戦力の均衡を図りたい意図と、RPGとしてレベルアップの陳腐化を避けたい意図からの折衝案と思われるものですが、
制限レベル内でもチーム内のレベルを均一にしていないと、自軍中の高レベルユニットを基準に敵のレベルが決定されるため不利な戦いを強いられたり、
わざわざ低いレベルで挑まなければNPCが十中八九殺されるといったような現象もあり、完璧には機能していません。※8
攻略途中からの成長方針変更は新兵を雇用して1から育てる事で対応可能になりましたが、固有の顔ありはそうもいきません。
これら以外のほとんどのRPSLGでもいずれかの方式を採用しており、前述の難問の解決は棚上げのままだったとも言えるのです。※9
ブレイブクリアシステムとはこれまでユーザーの自主判断に委ねていた難易度調整にメーカー公認の基準を導入したものです。
つまり、経験値稼ぎはこれまで通り自由に出来るが、公認の制限でクリアした場合、ボーナスが得られると言うシステムです。※10
前述の通り、RPSLG本来の目的からすると公式の制限は必要なので、ようやくRPSLGの本来あるべき姿になったと言えます。
このシステムによってSLRPGとRPSLGの完全な両立が実現できたと言えるでしょう。
そして、これは前述の難題の一つの回答としての側面も持っているという点にも注目すべきでしょう。
このシステムはこれまでの自由な無限稼ぎシステムを継承しつつ、ユーザーの育成状況の違いによるマップ難易度のぶれを一定範囲に抑える事が出来るため、
FEのような詰み化を防ぐと同時に、TOのような不安定さも避けられるというメリットを持っています。※11
4では人生やり直しシステムによって育成済みユニットの育成方針の0からの見直しも可能になり、システムは一定の完成を見たと言っても良いでしょう。※12
(そして、その上で制限クリアするかしないかもプレイヤーの完全な自由であり、制限が厳しいと思った時点でいつでも回避可能…という訳です。)
サモンのこのような面はちゃんと再評価されても良いのではないかと思っています。
製作会社のフライト・プランがなくなってしまった今、遅きに失した感は大いにあるのですが、
(もしあれば次回作に期待すると言う意味でも)同社がRPSLGとして実はこんなに素晴らしい作品を作っていたと言う考察をしていきたいと考えています。
さて、このブレイブクリアシステムですが、全く問題点がなかったというわけでもありません…。
まず、ブレイブクリアの条件、特に規定レベルの情報をゲーム内で見られなかった(見難かった)というのは問題だったと思います。
条件を明示してこそ機能するシステムなのですから、その条件が一部の攻略本でしか見られないという状況が好ましかったとは思えません。
攻略本を見ないライトユーザーにはブレイブクリアなど気にせず自由に楽しんでもらいたい…という意図もある程度は理解できるのですが、
その場合でも説明書のブレイブクリアに関する記述は最後の1ページだけに纏め、好きな人だけ見てくださいという書き方を徹底した方が良かったのでは?
これは本質的にはシステムというより、むしろユーザーに与える印象の問題なので本当に勿体無いです。
また、バトルに入った後でも(単なる時間の巻き直しで構わないので)直前のADVパートに戻れるシステムがあれば完璧ではなかったかと思います。
(直前のAVGパートのセーブデータを上書きしてしまった場合の救済策 これによって戦闘に挑戦した後からのトライ&エラーが可能になります)
※1 簡単に言うと、戦場での戦闘方法を考えるのが戦術級、戦力の整備など戦闘に至る基盤作りまで含むのが戦略級です。
FEの歴史を語る上でファミコンウォーズは外せませんが、更にその起源は(キャンペーン版)大戦略(マスターオブモンスターズ)などになると思います。
一方でドラゴンフォース・スペクトラルフォースシリーズやギレンの野望など戦略級のタイトルも存在します。
サモンナイトのAVGパートなどインターミッションでの準備が戦略に該当するという見方も出来ないではないので、この区分も割と曖昧ですが。
※2 フリーバトルの稼ぎ前提だと、フリーバトル無視だとどうやってもクリア不能というステージが当然出てくるのですが、サモンの場合それがありません。
SLRPGではあまり意味の無いバランス調整が1〜2でも妥当な形で行われてきたと言う話は考察2以降でも説明します。
※3 これはレベルを上げなければ始まらないRPGと、初期条件が曖昧になる程ゲーム性が損なわれていくSLGの本質的な相性の悪さ(矛盾点)に起因しています。
このためRPSLGのバランス調整はある意味本家のSLGより難しく、精度が高いものを作るには職人芸レベルの開発センスや開発力が必要となります。
また、ちょっとした仕様の不備が全体の陳腐化を招く可能性があるなど、極めて扱いの難しいジャンルの一つと言えると思います。
※4 賞金額から対戦相手を予想する事で相性の悪い相手を回避し、全てのキャラを最大レベルまで上げる事は可能です。
この手のシステムの穴を見つけることもSRPGの楽しみ方の一つではあるのですが…。
※5 このタイプのシステムはユーザーが慣れてくると自軍が強くなりすぎてバランスが崩れると言う逆の現象が起こってきます。
FE発売当時のポプコム誌の擁護派の須田PIN氏と否定派の円丈氏の論戦は現在のRPSLGの問題にも当てはまるものです。
(攻略法を苦悩する所が面白い×初見殺しで途中でやり直せない史上最悪のゲーム)
SRPGがRPSLGなのか、SLRPGなのかという認識の行き違いによる摩擦はSRPGというジャンルが生まれた当初からありました。
※6 このシステムはスパロボシリーズの方が先だったかも知れません。 スパロボの場合フリーバトルはなく、FE方式との混合でした。
(全滅後にレベルと資金を持ち越せる救済策はあり)
こちらも経験値システムを逆手に取ることで極高レベルパイロットを作る事ができます。
(レベルが均衡するとブレーキがかかる反面、レベル差が開くと経験値獲得量が急増するシステム+マップ兵器による同時撃破を活用)
スパロボの場合、マップに出てくる敵のレベルによって味方パイロットのレベルがほぼ規定されるため、レベル稼ぎの比重は比較的低く、
むしろ敵から得られる資金を(スキルを併用して)いかに増やし、ユニット(ロボット)の性能を上げるかという方が肝になっています。
※7 システムの穴を利用したクレリック法が有名。 これはヒーリング(回復魔法)を持たせたクレリックというクラスのユニットを2体用意し、
1vs1のオート操作トレーニングをさせて半日ほど放っておくと、レベルカンストのユニットが2体出来上がるというもの。
このユニットを石化させるなりして動きを止め、育てたいユニットで石を投げ続けると1投につき1レベルのペースでレベルが上がっていきます。
※8 一般論ですが、マップ数×レベル範囲のバランス取りは現実的に不可能なので、ある程度精度を犠牲にせざるを得ないということです。
同様に難易度のようなものをつけた場合も2倍3倍と負担が増えるため、hardよりeasyの方が難しいというような現象も簡単に起こり得ます。
※9 全てのSRPGをプレイした訳ではありませんので、サモン以外のアプローチも、もしかしてあったのかも知れませんが……。
※10 ブレイブ特典のパーティー能力は苦労の割に地味な能力が殆どで、コレクション要素の方が強いものです。
ブレイブ中はそれでも十分有難いですし、地味ながらも使える能力を見つけ出すのは楽しいのですが。
※11 勢い比較対象にしてしまいましたが、FEやTOは1ジャンルすら作った偉大な作品に間違いありません。
SRPG史を論じるのには必須の作品であり、サモンの方が優れているという意図ではありませんし、私個人も大好きな作品です。 念のため…。
※12 更に1からある独自要素、経験値任意振り分けシステムが鍵になっています。
一般的な経験値が止めを刺したユニットだけに与えられるシステムだと、ブレイブクリアシステムは十分に機能しません。
雑多図書館> 徹底攻略 サモンナイト4> SRPG史の中のサモンナイト・その1