みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          1

 その日は、残暑が厳しくて蒸し暑い日だった。
 私はドルファン学園の寮の自室で、鏡に映る自分の姿を見ながら、学校へ行く支度をしていた。
 下ろせば、それなりの長さになる髪を、手早く三編みにして、たらした。
 私の髪は、母譲りでどちらかといえば黒い。
 前髪を軽く櫛で梳かし、鏡で確認した。
 ドルファン学園の制服も、髪型もピシッとしていて完璧だ。
 最後の仕上げに、赤い革手袋(これは私のトレードマークになってしまっている)をして、寮を出た。
 外は、九月とはいえ日差しがきつく、私は少し目を細めた。
 ドルファンの街並みは、今日も平穏で、道行く人々はそれぞれの目的のために、せわしなく歩いていた。
 私の横を、楽しそうにおしゃべりをしている女子生徒達が通り過ぎた。
 −ここは、戦争の匂いがまったくしない。
 ここでは、戦争の事など微塵も感じさせない。
 それはドルファンをとりまく、鉄壁の城塞レッドゲートがあるという安心感からか?
 しかし、それでもここドルファン王国は戦争の真っ只中にある。
 
 ドルファン王国の北に位置するプロキア帝国が、今年に入り侵略を始めた。
 自国は内陸で海上による貿易手段をもたないため、三方を海に囲まれたドルファンを攻め落とそうというのだ。
 もともとプロキアは、近隣王国の中でも非常に危険視されている。
 政治は安定しておらず、内乱も絶えない。以前、一週間で政権交代したこともあるほどだ。
 それに引き換えドルファンの政治は安定している。
 現国王、デュラン・ドルファンの下、旧家の両翼と言われるピクシス家、エリータス家を中心とした貴族達との合議制がひかれ、王制であって絶対王政ではない。
 しかし、事軍事力においては、常に戦争をしているようなプロキアの方が一枚上手であったし、さらに勝利を確実なものにする為に、プロキアは、この地方最強の傭兵軍団、「ヴァルファバラハリアン」を投入してきた。
 ヴァルファは軍団長である、通称「破滅のヴォルフガリオ」率いる戦闘集団で、彼の下「*八騎将」と呼ばれるそれぞれの部隊長がおり、近隣諸国のあいだでは知らぬものはなし、と言われるほどの実力を持っている。
 最初はドルファン陥落も時間の問題かとも言われていた。
 だが、ただ黙ってやられるほど、ドルファンも甘くはない。
 ヴァルファに対抗すべく、永世中立国のスィーズランドを通して世界中の傭兵を集め、一大外国人傭兵部隊を作り上げた。
 余談だが、私はスィーズランドの出身で、今はドルファンに留学している。
 つい、二ヶ月ほど前に、両軍は初めて直接対決を行った。
 初戦はヴァルファ、プロキア軍の勝利に終わった。
 それによって、ドルファンは国境都市のダナンを失い、その上外国人部隊の隊長であった、ヤング・マジョラム大尉も失っている。
 しかし、ヴァルファ、プロキア軍も無傷の勝利であったわけではない。
 八騎将の一人、疾風のネクセラリアが死んだのだ。
 彼を討ちとったのは、その外国人部隊の一人の東洋人だ。
 私はその現場を、偶然にも見ていたので、その瞬間を今でもハッキリと思い出す事が出来る。
 
 そこまで考えたとき、すっかり気分が落ち込んでいた。
 鳥がさえずり、日差しの眩しい朝なのに。
 私は軽くため息をつき、頭を振った。
 もう、学校は目と鼻の先だ。
 気を取り直して、歩き出した瞬間、
 「あっ」
 反対側を歩いていた人と肩がぶつかり、私はしりもちをついてしまった。
 不注意。
 あんまり深く考えていたので、気付かなかったとは。
 自分に嫌気がさしながら立ち上がろうとしたとき、すっと手が差し伸べられた。
 その手の主を見上げて、私は一瞬声を飲んだ。
 

                      To be continued


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