みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 その顔には、嫌というほど見覚えがあった。
 黒い髪は長くもなく短くもなく、かるく流してあり、同じ色の瞳が心配そうに私を見ながらも何一つ見逃していない。
 服の上からでもわかる鍛えられた体は、無駄な肉が一切ついていない。
 薄い青色のシャツを着ているが、腰に剣が帯びられている。
 忘れようにも忘れられない、疾風のネクセラリアを討ち取ったあの東洋人傭兵が、今まさに目の前にいた!
 私は平静を装い、差し伸べられた手を無視して立ち上がった。
 鞄を拾い、スカートの埃を払っていると、彼が言った。
 「すまない。ケガは」
 「ないわ」
 「そうか、本当にすまなかった。少し考え事をしていたので」
 彼の*ルーマン語は完璧だった。
 「そう、構わないわ。私も考え事をしていたので。それより、あなた傭兵かしら」
 「ああ」
 もはや疑う余地はない。
 「私の名前はライズ・ハイマー。出来ればあなたの名前も知りたいわ」
 彼は少し戸惑ったが、
 「オレはヒューイ・キサラギだ」と言った。
 その時、ドルファン学園の予鈴が聞こえた。
 私は彼、ヒューイをもう一度まじまじと見た。
 「そう・・・。ヒューイ、縁があったらまた会いましょう」
 私は彼の横を通り過ぎて、校門へと急いだ。

 自分のクラスに入り、席につくと、クラスメイトのハンナ・ショースキーが来た。
 「おはよう、ライズ!」
 「…おはよう。」
 ハンナは、クラスの中でも飛びぬけて明るい性格の子なので、友達でもない私にまで声をかけてくる。
 茶色い髪をショートカットにしており、そのイメージ通りスポーツが得意で、勉強は苦手だ。
 「ねえねえ、さっき学校のすぐ前で東洋の人と一緒にいたよね?」
 「ええ」
 「あれって、ヒューイ?」
 「…知っているの?」
 ハンナは嬉しそうに頷いた。もっとも、他に動作を知らないだけなのかもしれない。
 「前にちょっと…身分証明書を拾ってあげてね。それ以来知り合いなんだ!」
 「そう」
 私は今だ気分が明るくならず、ハンナと話しているのが苦痛だった。
 しかし、ハンナはお構いなしに続けた。
 「夏休みにさ、ボク花屋でバイトしていたんだけどね。ほら、ロムロ坂の。そこにね、なんとヒューイもバイトをしに来てね…」
 そこまで言ってハンナは、くく、と笑いをこらえた。
 「あの顔でエプロンして花をいじるんだよ!もう最高に面白くてさ!」
 私はハンナの相手にほとほとうんざりしていた。
 このおしゃべりな女の子は彼が傭兵で、人を殺し、戦争に勝利するためにこの国にいる事を知っているのだろうか?
 ちょうど先生が教室に入ってきて、話はそこで終わった。
 ようやく嵐が去った。
 私はため息をつき、再びヒューイを思い出した。
 彼が、ネクセラリアを殺した。
 まさかこんなところで会うとは。
 皮肉な偶然に私は苦笑すると、日直の号令にあわせて起立した。

                        To be continued

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