みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
3
次の週の日曜日、私はいつものように街へと出かけた。
ただ違うのは、早い時間に外国人傭兵専用の宿舎を訪れ、ヒューイ・キサラギの居室を調べた事だ。
宿舎自体に行くのは誰でも行けるし、ヒューイに手紙を届けにきた学生アルバイトのふりをすれば、宿舎の管理人が簡単に部屋を教えてくれた。
あまりにも早く用事が済んでしまったので、少し街の様子を見ることにした。
午前中に銀月の塔に行き、昼過ぎに馬車でキャラウェイ通りまでやってきた。
キャラウェイ通りはいつものように人で賑わい、活気にあふれている。
さすがにドルファンで一番大きな通りだ。
通りに沿って色々な店が軒を連ね、時には露店なども見つけられる。
どこかで昼食をとろうと歩いていると、後ろから声をかけられた。
「ライズ!」
振り向くと、そこにはあのヒューイ・キサラギがいた。
私は軽く頭を下げた。東洋では人と挨拶をする時に、頭を下げると聞いていた。
「こんにちは」
「この前はすまなかったな」
「別に構わないわ」
「昼飯はもうすんでいるのか?」
私は首を振った。
「そろそろ何か食べようと思っていたところだわ。」
「丁度良い。この前のお詫びを兼ねておごるよ。どうだ」
別段断る理由もないし、彼と少し話がしてみたかった。
「いいわよ」
ヒューイはにっこりと笑うと、近くにいい店があるから、と言って歩き出した。
彼に案内されたのは、キャラウェイ通りでも有名なレストラン『エル』だった。
店の中は意外とシックだが、どこかきらびやかで、傭兵や女子学生には不釣合いな感じがした。
彼も私も非常にラフな出で立ちだったが、昼過ぎにレストランに正装で来る人間はいない。
この際、靴がハイヒールでないのは見逃してもらおう。
「…気取ったお店ではあるわね」
昼の遅い時間なので、待たずに席につけた。
彼は肉中心のコースを、私は魚のコースをそれぞれ食べた。
真鯛のポワレがとても素晴らしかった。
「おいしいわ。味はスィーズランドのヴェッフェルに勝るとも劣らないわ」
「そうだな。まさに至高と呼ぶに相応しい」
「そうね。ここのシェフは一流だわ」
私は正直、彼のセリフに驚いた。
東洋の傭兵と言うからには、学の無い乱暴者かと思っていたが、そうでもないらしい。
「ライズはスィーズランドに行った事があるのか?」
私は食後のコーヒーを軽くすすってから答えた。
「私はスィーズランドの出身なの」
「そうか。ドルファンには何のために」
「留学よ」
「なるほど」
彼はそれ以上は聞かなかった。
私は反対に質問した。
「あなた、先の戦いでヴァルファの八騎将、疾風のネクセラリアを討ち取ったそうね?」
私の言葉に、彼の表情は変化しなかった。
「驚いたな。そんなことを知っているなんて」
「八騎将を討ち取ったのよ?話が広まらないとでも思ったの?」
「それもそうか。だが、運が良かっただけだ」
ヒューイは一呼吸置いてから話を続けた。
「…彼はヤング大尉、オレの上司だが、との戦いで消耗していた。だから勝てた。それだけの事さ」
「それでも勝ちは勝ちだわ。戦場では、疲れていたからなんて言い訳は通らない」
彼が微笑した。
「とても15、6才の女の子のセリフとは思えないな。だが、確かにその通りだ」
私は食後のコーヒーを口にしながら、なにも答えず上品に頷いた。
ヒューイが会計をすませ、私たちは店を出た。
店の外は、九月の午後の日差しで眩しかったが、すこしだけ秋の香りがした。
「ごちそうさま。話が出来て楽しかったわ」
私が言うと、彼はにっこりと笑った。
笑っていると、傭兵には見えなかった。
「満足してもらえたようだな。これからどうするんだ?」
「これで失礼するわ」
「そうか。それじゃまたな」
彼は片手を上げるとキャラウェイ通りの人ごみの中へと消えていった。
「……」
私は彼と逆の方向に向かって歩き出した。
彼について、もう少し知らなければならないかもしれない。
To be continued
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