みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 収穫祭を目前に控えた土曜の夜。
 私はドルファン学園学生寮の食堂でコーヒーを飲みながら、ウィークリートピックスを読んでいた。
 トピックスは一週間の出来事をしるした新聞のようなもので、毎週土曜にこれを読むのが習慣になっていた。
 記事の一つに、気になる内容を見つけた。
 今、ドルファンと戦争を起こしているプロキアの記事だ。
 どうやら現首相のフィンセン公と、左派のヘルシオ公との対立が緊張化しており、近々内乱の気配だというのだ。
 穏健派のヘルシオ公はドルファンとの対立を望んでいない。
 もしも政権が交代したら、戦争は停戦になるだろうし、そうしたらプロキアに雇われているヴァルファバラハリアンはどうなるのであろうか?
 気が付くと一杯目のコーヒーが空になっていたので、セルフサービスのカウンターに行った。
 クラスメートのレズリー・ロピカーナが丁度、コーヒーを注いでいるところだった。
 「ああ、ライズ。あんたも飲むかい」
 私がうなづくと、彼女が注いでくれた。
 レズリーはシャワーを浴びた後のようで、豊かな金髪が湿っていて艶々と光っていた。
 私がテーブルに戻り、トピックスをたたむと、レズリーが向かいの席に座った。
 「こんな時間にコーヒーを飲みながらトピックスねえ。あんたも暇だな」
 私は肩をすくめた。
 その動作の分、少なくともレズリーよりは忙しい。
 彼女がコーヒーを一口のみ、苦味を味わっていた。
 私はミルクを少し入れて、かき混ぜていた。
 夜のカフェテラスは人が少なくて静かだ。
 私は静かなところが好きだ。
 レズリーはコーヒーをまた一口飲んでから言った。
 「そういえば明日は収穫祭だな。ライズは行くのかい」
 「さあ・・・」
 収穫祭とは、今年の収穫を祝うための祭りだが、その催しはおおよそ収穫とは関係が無い。
 「つまらない返事だな。あんたが行ったら男共が黙ってないだろうに」
 「くだらないわ」
 そう、収穫祭には本当にくだらないしきたりがあるのだ。
 それは、男も女も、絶対に一人で出かけなくてはいけない、というものである。
 そうして人々は会場のサウスドルファン駅前に行き、気に入った異性に声をかけ、そこからメインイベントが行われる運動公園へ行くのだ。
 例え夫婦であってもだ。
 誰が考えたか知らないが、よほど一人でいる事に慣れていない人物であろう。
 レズリーはあくびをかみ殺しながら、コーヒーを飲んでいた。
 なぜコーヒーを飲みながらあくびがでるのだろう?私はカフェインのおかげで、頭も目も冴えている。
 収穫祭では、剣術大会と馬術大会が開かれるはずだ。
 もしもヒューイがどちらかに参加するのであれば、実力を見る良い機会だ。
 彼が参加する保証はないものの、行って確かめる事くらいはしても良い。
 どうせ明日はなにも予定はないのだから。
 私が考え込んでいる間に、レズリーはテーブルに突っ伏していびきをかき始めていた。
 私はベッドで眠る方がいいので、部屋に帰ることにした。
 明日のお祭り用の衣装は、どこにしまってあっただろうか?


                                 To be continued

※レズリーは原作上寮生ではありませんが、この小説では寮生と設定させていただきました。


 
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