みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
5
次の日。
収穫祭の会場となるサウスドルファンの駅前は、人で溢れかえっていた。
露店や出店が所狭しと道の両側をうめつくし、人々は陽気に歌を歌い、踊り、食べ、なかには今日の剣術大会の優勝者を賭けてる者までいる。
私は多くの女達と変わらず、伝統的な祭り衣装を着ていた。
それは、古臭い感じの牧歌的な服で、地味なスカートにスカーフ。
私のスカーフは薄い黄色だったが、今年の主流は明るい茶色のようだ。
流行には惑わされない。それには強い意志が必要だが、私は持っている。
スカーフはその証拠だ。
好みの異性や、自分の伴侶を探す人。すでに相手を見つけて運動公園に向かう人。
ただたんにお祭り気分を味わいたい人。
すべての人がごった返しており、10メートル歩くのにひどく苦労した。
一歩歩くごとに人を避けなければいけないし、人と肩がぶつかるたびにスカーフを直さなければならなかった。
この人ごみの中で、ヒューイを見つけるのは無理かもしれない。
すでに人ごみの中にいる事に愛想が尽きていたし、気分が悪くなってきた。
また、誰かと肩が当たった。
私は別に謝らなかった。
肩が当たるたびに謝っていたら、次の日には首の筋がおかしな事になってしまうだろう。
しかし、ぶつかった相手(いかつい太った男だったが)は気に入らなかったらしい。
「おい、姉ちゃん。人にぶつかって謝らねえとはどういうことだ」
頭が痛くなるほどの酒くさい息だ。
私はそれを無視して、先を急ごうとした。
男が私の腕を掴んだ。
「おい、まてよ!」
私は不機嫌だった。
人ごみにも、この酔っ払いにもうんざりだ。
男がグイと腕を引っ張った瞬間、私はその勢いを利用し、彼の足を払いながら左手で肩を押した。
酔っている事もあり、彼は祭りにふさわしく、大変派手に転んだ。
男は一瞬、なにが起きたかわからずにポカンと口を開けていたが、ハッと我に帰って、
「ガキが、調子に乗るなよ!」と叫んだ。
すでに辺りの人たちは、これは見物だと言わんばかりに、円を作り私たちを囲っている。
私は深くため息をついた。
「自業自得でしょう?なにをそんなに怒っているの、みっともないわ」
私の言葉を理解しているのか、していないのか、男は二ヤッと笑った。
「てめえ、良く見りゃなかなかいい女じゃねえか。ガキだが、可愛がってやるよ」
男の歯は、タバコのヤニで黄色かった。
「あなた、いい加減に・・・」
私は言葉をいいかけて止めた。
あと、10秒ほどで事は片付きそうだった。
男の後ろから、青い服を着た東洋人が音も無く現れ、いきなり男のみぞおちに強烈な一撃をお見舞いした。
男がよろけたところに、ワンツーと左右のコンビネーションを叩き込むと、フィニッシュに渾身のアッパーを繰り出した。
それで、終わり。
男は膝から崩れ、気を失って倒れた。
「一応お礼を言っておくわ」
「どういたしまして」
その東洋人、ヒューイはそう言って微笑んだ。
彼の歯は、白かった。
「一体何事だったんだ?」
「ただの酔っ払いよ。あなた何もわからずにこの男を殴り倒したの?」
「乙女の危機だと思ったんだ」
その時、まわりの野次馬達から大きな歓声と拍手が巻き起こった。
私はまたため息をついた。
一刻も早くこの場から離れたかった。
「パートナーがいないのだったら、私と運動公園にいかない?」
「いいよ。女の子からのお誘いは、断らない事にしている」
「ずいぶん紳士的なのね」
「まあな」
「暴力の得意な紳士」
彼は肩をすくめた。
私たちは、野次馬達を尻目に、運動公園を目指した。
To be continued
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