みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
6
運動公園では、馬術大会の真っ最中だった。
ヒューイが舌打ちをした。
「アンラッキーだったな。これに出ようと思っていたんだ」
「対戦相手にしてみれば、ラッキーだった?」
「かもしれん」
「たいした自信ね。それで、どうするの」
「仕方ない。せっかく来たんだから、アレに出るさ」
そう言って私のほうを見た。
私の後ろに剣術大会の出場受け付けがある。
「見させてもらうわ」
私はヒューイが受付を済ませるのを見届けてから、競技場の中に入った。
まだ客席は空いており、私はいい場所に座れた。
売り子が、お茶とコーヒー、弁当を売っている。
私は、砂糖とミルク抜きの紅茶を買った。
紅茶は生ぬるく、不味かったが、こんなところで美味しいアールグレイが飲めるはずもない。
コーヒーにするべきだったが、そんなことは表情に少しも出さない。
忍耐力のある女だ。
しばらく美味しくない紅茶を飲んでいると、周りの席も埋まってしまった。
恋人の応援に来ているらしい女の子のグループが隣だった。
なにやら話し合っては、黄色い声をあげていて、耳が痛くなりそうだ。
これに耐えるのが私の大会だ、と思うと我慢できた。
目指すは優勝よ、ミス・ライズ。
そうこうしていると、楽団が高らかにファンファーレを演奏し、剣術大会の始まりを告げた。
なんと、一回戦目からヒューイの登場だった。
「キャー!ステファン!!そんな外国人やっつけちゃって!!」
ヒューイの相手は、どうやら隣の女の子の恋人のようだ。
哀れステファン。傭兵相手では、恋人の前で恰好もつけられないだろう。
運も実力のうち、とは言わないが、相手が悪かった。
開始30秒後に、ステファンの剣が宙を舞った。
「もう、何やってんの!最低!!」
グループのほかの女の子にからかわれて、ステファンの恋人は赤面している。
ステファンが負けた事より、友達にからかわれる事の方が悔しそうだ。
その後、黄色い声耐久戦の決勝に差し掛かる頃、ヒューイの四回戦目の試合が始まろうとしていた。
これに勝てば準決勝進出だが、相手も今までのような一般人ではなく、正規のドルファン国軍の兵士のようだ。
目の覚めるようなコバルトブルーの軍服に身を包んだその男は、ゆっくりと剣を引き抜き構えた。
対するヒューイも、剣を抜いたが、構えずにだらりと右手にぶら下げている。
彼の剣は、世間一般でいうところの剣ではなく、片刃の反りの入った剣であった。
たしか、東洋の武器で『カタナ』というはずだ。
一見、隙だらけのヒューイだが、ドルファン国軍の男は打ち込むことができない。
なにかしらの威圧感を感じているのだろう。
しばらく、にらみ合いが続いた。
ヒューイは落ち着き払って立っており、反対にドルファン国軍の男は焦りに肩で息をしていた。
たまりかねた男が、猛然とヒューイに斬りかかった。
寸止めがルールだが、彼にそんな余裕はない。
と、その刹那の瞬間に、ヒューイの剣がまさに電光石火の速さできらめいた。
甲高い金属音が競技場に響き、何かがくるくると空めがけて飛んでいった。
それは、ドルファン国軍の男の剣であった。
仕掛けた男の剣を、向かいうったヒューイの一撃が叩き折ってしまったのだ。
男が呆然と立ちすくむ中、ヒューイは剣を鞘に収めた。
なかなかの技だ。
彼の実力の一端を見た。しかし、あれが全力なのかもしれない。
ヒューイの試合が終わると、隣のグループがいなくなった。
黄色い声耐久戦、優勝者に乾杯。
私は残っていた紅茶を飲み干した。
To be continued
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