みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          7

 今度は前の経験からコーヒーを買い、それを半分ほど飲んだ頃、準決勝戦が始まった。
 金髪の長い髪を後ろに一つにまとめ、キラキラと光る優雅な鎧をまとった男がヒューイの相手のようで、競技場に我が物顔で入ってきた。
 対するヒューイはいつまでたっても入場してこない。
 怖気づいたのだろうか?
 十分しても来ないので審判が、相手の不戦勝を宣言した。
 そこで初めて相手の名前を知った。
 ジョアン・エリータス。
 なんと旧家の両翼、エリータス家の三男坊ではないか!
 これはなにか胡散臭い。
 不戦勝を勝ち取ったジョアン・エリータスが、会場中に響く声で叫んだ。
 「フ・・・ハハハ!東洋人め、僕の実力に恐れをなしたな!だが賢明な判断だよ。僕は聖騎士の血を引いているんだからな!」
 私はため息をついて、席を立った。
 そのまま飲みかけのコーヒーをくず入れに捨てて、競技場を出ると、出口にヒューイが立っていた。
 「及第点ね」
 私が言うと、彼は肩をすくめた。
 「言い訳はしたくないが、あのエリータスのぼんぼんとは、関わりたくないんだ」
 「知り合いなの」
 「ま、色々とあってな。顔見知り程度に。」
 「そう。それでも負けは負けだわ」
 彼はまた肩をすくめた。
 しかし、普段表情をあまり顔にださない彼の目が、少し怒気をはらんでいた。
 思いのほか、負けず嫌いなのかもしれない。
 「まあ、せっかくの祭りなんだ。色々と楽しもう」
 今度は私が肩をすくめた。
 今日の試合を見ただけでは、彼の実力を測りきれない。
 不味い紅茶と、黄色い声に耐えたのに見合った収穫ではなかった。
 私の収穫祭は、とんだ不作だ。
 その後、私たちは競技場の周りの露店などを見て回った。
 「祭りはいいな。気分が明るくなる」
 「そうかしら?騒がしくて不快だわ。今は戦争中なのよ」
 「戦争中だからさ。みんな、日々の恐怖から逃げたいんだ」
 「不毛だわ。一時の安心を求めるくらいなら、自ら戦地に赴き、戦うべきよ」
 「戦うのは俺達の役目だ。何も知らない人に、戦いの恐怖を知ってもらいたくはない」
 俺達?それは私も含んでいるのだろうか。それとも単に、傭兵達の事をさしているのだろうか。
 「わからないわ。あなたは傭兵でしょ?この国になんの思い入れがあるっていうの?この国の人々は見ず知らずの外国人が戦い、死んでいくのに、自分達はレッドゲートの内側でのほほんと生きているのよ」
 「そうだな」
 「・・・・・・」
 「だが、それが傭兵だ。求められれば戦う」
 ヒューイの言っている事はもっともだった。
 何故、あんな言葉が出てきてしまったのだろう?
 「・・・悔しいわ。私の安全も、この国の人たちの安全も、みんな誰かからもらったものなんて」
 「そう思ってもらえるだけで、十分だ」
 そう言って、ヒューイは微笑んだ。
 きっと私の安全は彼らからもらっていると勘違いしたのだろう。
 だが、実際はそうなのかもしれない。
 自分に腹が立ったが、決して表面には出さないように努めた。
 また、しばらく二人で競技場の周りを回って歩いた。
 その間に、私はすっかり平静を取り戻した。
 そういえば、辺りが暗くなり始めている。
 思わぬ長居をしてしまった。
 早く帰らないと、寮の食堂がしまってしまう。
 「それじゃ、ここで失礼するわ」
 「おう、気をつけて帰れよ。じゃあな」
 ヒューイは軽く手を振った。
 私はそれに答えず、足早にその場を去った。


                       To be continued


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