みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
8
それからしばらく、私は毎日が忙しく、ヒューイの事など半分忘れていた。
それというのもドルファンと交戦中のプロキアで起きた内乱のせいだ。
かねてから緊張状態の続いていた首相フィンセン公と、ヘルシオ公がついに衝突し、フィンセン公は敗れた。
それによってドルファンに侵略中だったプロキア軍はヴァルファバラハリアンを残し撤退。
さらにはドルファンに対し、休戦まで申し出たのだ!
ヴァルファバラハリアンはプロキアからの撤退命令を無視し、今もダナンにいる。
このため、ドルファンの緊張状態はいまだに続いており、戦争が終わったわけではない。
昨日、プロキアからの最後通告がヴァルファに下されたとの知らせがドルファン中に広まった。
ヴァルファが勧告を無視しつづけるならば、武力行使も辞さない、と。
だが、実際に武力行使にいたったとしても、今のプロキアにはヴァルファを退ける程の力は無いはずだ。
内乱続きで士気の鈍っている。一体どうしてそんな強硬な態度でいられるのだろうか?
しばらく考えていたが、答えが出そうに無かったので、気分転換に外に出ることにした。
外の空気は新鮮で、11月も終わりになれば冬の匂いがする。
私はセリナリバー駅から馬車に乗り、カミツレ高原駅まで来た。
この駅の周辺には古くからの遺跡や、高原をとりまく森林等があり、人の数も少ない。
高台に立つ遺跡の一つ、銀月の塔はドルファンの街並みが一望できる事もあり、展望台として開放されている。
私はその銀月の塔に登り、わずかに肌に冷たい風を感じながら街並みを見下ろしていた。
人もまばらなこの塔は、落ち着くにはもってこいの場所だ。
美しい街並み。
光さえ放ちそうなドルファンの街並みは、私には眩しすぎる。
その時、後ろから声をかけられた。
「あ、あの・・・」
私は振り向いて、その声をかけてきた男を見た。
ドルファン軍の制服である、青い服を着ている。
ベルトに剣が帯びられている。
髪の色は黒く、短く刈っていたが、襟元に細い三つ編みが二本ぶら下がってる。
あきらかにこの国の人間ではない。
彼も、ヒューイと同じような外国人傭兵だろう。
「何?」
私が言うと、彼はちょっとはにかみながら答えた。
「こんな所で何をしているんですか」
おかしな事を聞いてくる。景色を眺める以外に、何をしていると思ったのだろうか?
「街を眺めていたわ。見ればわかるでしょう」
「え、ええ、そうですよね。いや、そうじゃなくて・・・」
「何?何か用」
「そ、そうです。あの、なんて言えば良いのか・・・」
私はため息をついた。ハッキリしない男だ。
彼の相手をしているほど暇ではないし、やり過ごそうと歩きかけたときに彼がようやく言った。
「あ、あの!お茶でも一緒にどうですか」
「・・・・・・」
何かと思えばただのナンパか。
「そんな暇、ないわ」
私はキッパリと答えて、歩き出した。
彼は動揺もあらわに、直立不動で何事かぶつぶつとつぶやいていた。
「うう、やっぱりキサラギ隊長のように上手くはいかないよな・・・」
私はその言葉に反応した。
「キサラギ?あなた、ヒューイを知っているの?」
彼は驚き顔で答えた。
「は、はい。ヒューイ・キサラギ隊長は、我が第三傭兵部隊の隊長ですから・・・」
私は向き直り、彼の方を向き、言った。
「気が変わったわ。どこかで、話しましょう」
「え!」
「塔の下に店があったわね。そこでいいいかしら」
「は、はい!」
これはヒューイのことを調べる絶好のチャンスだ。
私は浮かれる傭兵と一緒に塔を下りていった。
To be continued
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