みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 その浮かれた傭兵は、リン・コーユーと名乗った。
 銀月の塔の入り口近くの喫茶店に向かい合って座り、私は紅茶を、彼はコーヒーを飲んでいた。
 店の中は客もまばらで、とても日曜の午後とは思えない。
 私は砂糖もミルクも入れていない紅茶(ドルファン産のオレンジペコのようだ)を、ゆっくりと飲んだ。
 一方、リンは砂糖を三つも入れたコーヒーにミルクをたっぷりと入れて、それを流し込むように飲んでいた。
 そんな飲み方をするなら、水に砂糖とミルクをいれても同じだ。
 「ぼ、僕、東洋圏の中華皇国出身なんです。だから、同じ東洋圏出身のキサラギ隊長とは気が合うんです」
 彼は誇らしげに言った。
 東洋圏出身なのが誇らしいのか、ヒューイと気が合うのが誇らしいのか。どちらにしろ、あまり誇らしい事ではない気がする。
 「それで、あなたはヒューイの部隊なのよね」
 「はい!僕はキサラギ隊長の為なら、どんな戦場にも赴きます!」
 「そう。傭兵なんだから当然といえば当然ね。そんなことより、あなたから見たヒューイってどんな人なのかしら」
 「隊長ですか?隊長は立派な方です。部隊の指揮も上手いし、頼りがいもあります。気さくで優しい方ですし、何よりも強い!剣術に関して言えば、あのヤング大尉よりも上だったかも知れません」
 「そう。あなたはよほど彼に心酔しているみたいね」
 「はい、隊長は僕の憧れです。ところで・・・」
 彼は私の顔をちらりと見た。
 「ハイマーさんは、その、隊長とはどういったご関係で?」
 「知り合いよ。一二度、会った事があるだけだわ」
 「そうですか・・・。僕、てっきり恋人かなんかだと思っちゃいました!」
 「バカなことを言うわね。そんなこと、あるわけないわ」
 私とヒューイが恋人?あんまりにも現実離れしていて、私は思わず紅茶を吹き出すところだった。
 「いやあ、ハイマーさん、あんまり隊長の事を詳しく聞くものだからつい。」
 「彼に興味があるのよ。少しだけ。それだけだわ」
 「そ、そうですか」
 彼はもじもじと私の顔を盗み見た。
 なんなのだろうか?この釈然としない態度に、不快感を抱き始めていた。
 なんというか、戦場で命を賭けた戦いをしている傭兵らしからぬ態度だ。
 「あなた、本当に傭兵なの?」
 彼は驚いて両目をしばたかせた。
 「ほ、本当ですよ!この制服と剣がなによりの証拠です!」
 私は黙って紅茶を啜った。
 「どう言ったらいいかな…軍の内部事情だって知っていますよ!」
 「内部事情?」
 「そうです。例えば、プロキアがシンラギククルフォンとドルファン国軍との連携作戦を企画している事とか・・・」
 「シンラギ・・・ククルフォンですって?」
 私は顔の筋肉がこわばるのを感じた。
 シンラギククルフォンと言えば、東洋最強の殺人集団として名高い傭兵部隊ではないか!
 「プロキアとシンラギって・・・どういうこと?」
 「あれ、トピックスとかには載ってないんですか?プロキアはダナン撤退命令に従わないヴァルファバラハリアンとの契約を解除し、新たに雇い入れたシンラギの連中を、ヴァルファ討伐にあてたんです」
 「そんな・・・」
 これで、プロキアの強硬な態度の理由がはっきりした。
 南からドルファン、北からプロキアに攻め立てられては、さすがのヴァルファバラハリアンと言えども、敗戦は必至。
 「あれ?これ、言っちゃまずかったのかな…」
 私は答えず、席を立った。
 「ハ、ハイマーさん!?」
 「・・・気分が悪いの。悪いけど、ここで失礼するわ」
 そう言って店を飛び出すとき、唖然としているリンの姿が目に映った。
 「お父様・・・」
 私はただひたすらに走った。
 今はこの情報を一刻も早く父に届けなくては。


                            To be continued


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