みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          10

 その日は、珍しく朝から雨が降っていた。
 すでに12月に入っているので、雨が降れば寒さも増す。
 しかし、ドルファンの冬は故郷のスィーズランドほど寒くはないし、私は寒さが苦手なわけではない。
 寮のカフェテラスにもストーブが置かれており、私は土曜の夜恒例になったトピックスを読みながらのコーヒーを飲んでいた。
 私は、ヴァルファバラハリアン八騎将の一人として、何をするべきか模索していた。
 何をすれば、一番わがヴァルファに、お父さまに有利に事が運ぶだろう?
 やはり、王族の人間の暗殺が一番の復讐になるだろうか?
 国王デュラン・ドルファンはさすがに無理だ。
 一国の国王を暗殺するなど、小説のスパイのようにやすやすとこなせるものではない。
 そうなれば次に狙うのは国王の娘である、王女プリシラ・ドルファンに他ならない。
 彼女ならば国王暗殺ほど無謀ではない。
 何か策を考えねば。
 そんな事を考えながらトピックスを読んでいると、最終面に面白い記事を見つけた。
 記事の内容は、サーカスのテントからホワイトタイガー等の猛獣が逃げ出したが、折りよく居合わせた東洋人傭兵らの活躍により、怪我人は出なかった、との事だ。
 折りよく居合わせた東洋人傭兵。
 紙面のすみに、目撃者のコメントが載っていた。
 『ホワイトタイガーを、まるで子猫でも相手にしているかの様にやっつけたんだ。物凄い剣の使い手だよ!』
 その横に、名前は伏せてあったが、剣術大会三位入賞の実力者。と書いてあった。
 なにかと話題になる男だ。
 それ以上特に面白い記事も無かった。
 私は自室に戻り、父宛の手紙を書いた。
 プロキアの内乱に伴う、国内の変化はドルファンには見受けられない事。
 ネクセラリアを討ち取った、あの東洋人傭兵がまた手柄を立てた事。
 そして、私は変わりなくやっている事。
 それらを簡潔にしたためた。
 明日は手紙を出しに行かなくては。
 私はランプを吹き消し、雨音に包まれながらベットにもぐりこんだ。
 そこで初めて手袋を取ると、眠りについた。

 次の日はすっきりと晴れ間が広がり、気持ちの良い日曜だった。
 冬の高い日差しが、冷たい空気を裂くように差し込み、気分が良い。
 私は紺のロングコートに赤いベレー帽という、完璧な身なりで歩いていた。
 手紙は(ドルファンの郵便局ではなく、私の部下の一人に)出してしまったので、やる事がなくなってしまった。
 最近暗い気分の時が多く、こんなに気分の良いのは久しぶりだったので、馬車を使わずに、セリナリバー駅から散歩を楽しむ事にした。
 しばらく歩くと、前方に知っている後姿を見つけた。
 黒い髪に青いコート。くつろいで散歩を楽しんでいるように見えても、一切隙が無かった。
 まるで背中に目があるように。
 私は足早に追いつくと、声をかけた。
 「奇遇ね」
 彼、ヒューイ・キサラギはゆっくりと振り向いた。
 「よう、ライズ。久しぶりだな」
 ヒューイはいつもと変わらぬ笑顔で私を見た。
 頬に、まだ新しい三本の引っ掻き傷があった。
 「あら、その頬はどこの猫に引っ掻かれたのかしら」
 「言う事を聞かない白猫を、躾てきたんだ」
 「そう。あなたにホワイトタイガーの調教ができるなんて、思っても見なかったわ」
 彼はニヤリと笑った。
 「よくご存知で」
 「ウィークリートピックスに載っていたわ。あなた、読んでないの?」
 「興味がないものでね」
 彼はいかにも興味がないと言った様子を表現するために、軽く首を振った。
 「そうだ、ライズ。ここで会ったのもなにかの縁だ。どこか行かないか」
 「・・・何処へ」
 「そうだな、ロムロ坂の喫茶店でお茶でもしようか」
 私は特にする事もない。
 暇つぶしにはなりそうだ。
 「構わないわ」
 「それじゃ、行こう」
 私たちは馬車に乗るために、フェンネル駅へと歩き出した。

                           To be continued


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