みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 ロムロ坂はいつものように静かな雰囲気で、案外嫌いではない。
 ここはキャラウェイ通りや、城東大通りとは違い、落ち着いたちょっとしたおしゃれな店が多い。
 画廊やアンティークショップなどもあり、私はたまに絵を眺めに来たりしていた。
 坂を下りきったところに、やはりおしゃれな雰囲気の喫茶店があり、私たちはそこに入った。
 オープンテラスをさけて、店内の席に座ったが、若いカップルが何組かテラスにいた。
 確かに店の中は少し暑いが、外でかじかんだ手でコーヒーを飲むのはバカらしい。
 私はコートを脱ぎ、椅子の背もたれにマフラーと一緒に掛けた。
 外ならその必要がない。
 だが、脱いだからといって私の完璧な身なりは揺るがない。
 そうか、外の人々はコートを脱ぐと身なりが崩れるのだ。
 向かいの席に座ったヒューイは、コートを脱いでも身なりは崩れていなかった。
 「あなたは何にするの」
 「そうだな・・・」
 彼は置いてあるメニューに軽く目を通した。
 私も見た。
 ブレンド、数種類の紅茶、マニュ、パフェ、砂糖のかたまり、なんでもござれだ。
 「さっきまでコーヒーにしようと思っていたんだが、店の中が暑いのでやめたよ。オレは天然水にする」
 意外にも、私も同じ考えだった。
 「私もそれにするわ」
 注文を済ませ、私たちはしばらく外を眺めていた。
 ウェイトレスがテーブルに品物を置いてから、伝票を伏せて置いた。
 彼が水を一口飲んだ。
 私も飲んだ。
 冷たく、硬い水が、喉を通り体を駆け抜けるのを感じた。
 外のテラスで、一組のカップルが一つの飲み物にストローを二つ挿して分け合って飲んでいる。
 そして楽しげな笑い声を上げていた。
 「・・・平和ね。戦争中だというのに」
 「そうだな。だが、それでいいと思う」
 私は外から視線を移して、彼を見た。
 「戦争が、なくなればいいと思う?」
 彼は外を見たまま答えた。
 「さあな。戦争が終われば職がなくなる。そうすればまた新しい戦場に赴くだけさ」
 「そうね。馬鹿げた話ね」
 「そうだな」
 彼は私を見て、フッと微笑んだ。
 私は黙って水の入ったグラスを、両手で持っていた。
 「ライズは、戦争が早く終わればいいか?」
 私はしばらく答えなかった。
 「さあ。私にはわからないわ」
 この戦争が終わるとき。それはすなわち、父の復讐が終わるときか、ヴァルファの敗北の時だ。
 どちらも何かを失い、何も得られないかもしれない。
 傭兵としてずっと戦い続けられるなら、それも一つの生き方だ。
 氷が一つ、グラスの中で音を立てて踊った。
 戦争が終われば、職がなくなる。
 「・・・傭兵にとって戦う理由なんて、いらないのかもしれないわね・・・」
 私は自分でも聞き取れないほどの声でつぶやいた。
 「なにか言ったか?」
 「いいえ。もう出ましょう」
 そう言って、席を立った。
 あのカップルは、まだ楽しげに声をあげていた。

 

                           To be continued
  
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