みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          12
 
 店を出ると、コートを着ているとはいえ、少し寒く感じた。
 だが、すぐに慣れる。
 「並木道でも散歩しながら帰ろう」
 彼が言ったので、私は同意の印にうなずいた。
 ロムロ坂のすぐ近くに、ポプラの並木道がある。
 私たちはそこを、並んで歩いた。
 並んでみると、彼は私より頭一つ分、背が高い。
 私は背が低い方ではないが、彼が特別高いわけでもない。
 しかし、東洋人は背が低いと文献で読んだ事があるし、彼は東洋では高いのかもしれない。
 12月の並木道は人通りも少なく、裸の木々がどこか寂しげだ。
 北風が強く吹き抜け、私は帽子を手で押さえた。
 寒さは感じなかった。
 「この国の冬は、結構暖かいのね。それとも、あなたにとっては寒いのかしら」
 私はヒューイを見上げた。
 彼が私をちらっと見て、笑った。
 「そうでもないな。オレみたいな仕事をしていると、寒さとかには疎くなってしまうのでな」
 「寒さには強そうね。それでこそプロだわ」
 そう言って、私は自分が微笑んでいるのに気が付いた。
 「!!」
 はっとして、彼から顔をそむけた。
 微笑んだのなんて、いつぶりだろう。
 ドルファンに来てからは、初めてかもしれない。
 なぜ、微笑んでしまったのか?
 とにかく、彼が私と同じプロだった事で、嬉しくなってしまった。
 いいや、そんなことはない。
 では何故?
 微笑は悪い事ではないが、私は戸惑っていた。
 ドルファンに来て以来、常に任務中の私は、心安らぐときなどほとんどない。
 だが・・・
 今、この瞬間に、私は一瞬の安らぎを感じてしまった。
 敵国傭兵であり、八騎将のネクセラリアを殺した相手に?
 きっと彼がよく笑うので、私もつられてしまったのだ。
 そうに違いない。
 私たちはその後、ほとんど言葉を交わさなかった。
 私は喋りたくなかった。
 彼との会話に安らぎなど、求めたくなかった。
 気が付けば、サウスドルファン駅についていた。
 ここから、私はフェンネル駅に。ヒューイはシーエアー駅に行かなければばらない。
 別れ際に、ヒューイが言った。
 「ライズは微笑っている時のほうが、可愛いな。それじゃ、またな」
 彼は乗り合い馬車に乗り込んで、消えた。
 私は自分が赤面しているのがわかった。
 赤面したのも、ドルファンに来て初めてだった。

                              To be continued


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