みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
13
12月も半ば、私はスィーズランドの実家から、パーティドレスを送ってもらった。
使用人がきちんとたたんでくれていたので、しわにならずにすんでいる。
使用人以外、誰もいない実家はさぞ静かな事だろう。
ドレスをハンガーにかけて、クローゼットの一番奥にかけた。
隣には学校の夏服、いつもの紺色のロングコート、収穫祭で着た服しかかかっていない。
ドレスと揃いの大きな黄色いリボンを箱から出して、机の上に置いた。
しわや、よれを作らないように細心の注意をはらっていたので、思ったよりも疲れた。
一息つこうと思い、カフェテラスに向かった。
日曜の昼間なので、思ったよりも人が多かった。
中には、自宅から通っている生徒の姿も見受けられた。
お茶を持参すれば、学園の生徒なら誰でも使えるので、喫茶店よりも経済的で人気がある。
窓際のカウンター席が、比較的空いていたので、よみかけの本を置いておいた。
生徒用に開放してある、ちいさなキッチンに入っていき、お湯を沸かす。
寮生はこのキッチンに、自分用の棚を持っている者が多い。私もその一人だ。
そこからスィーズランド製のアップルティーの缶を出して、淹れた。
部屋から持ってきた、ロムロ坂で買ったレイズンチップ入りのクッキーを三枚皿に載せて、席に戻った。
窓から冬の低い日差しが差し込んでおり、本を読むのには少し明るすぎる。
紅茶を一口飲んだ。
口の中にほろ苦さとさわやかな甘みが広がり、私のように忍耐力がなければ、思わず口笛を吹くところだ。
紅茶はスィーズランド製に限る。
読みかけの本を開き、レイズンチップクッキーを一口食べた。
甘すぎる。今度買うときは、アーモンドクランチにしよう。
10ページほど、本を読んでいると、隣の席に茶色いセミロングの髪に、赤いツーピースを着た女の子が座った。
学校で見た覚えがある。確か、同学年のはずだ。
その子の隣に、紅茶を二つ持ったハンナが座った。
香りからして、普通のダージリンのようだ。
ハンナが私に気付き、声をかけてきた。
「やあ、ライズ!」
私は頷いた。
隣の子が、戸惑い気味に私を見た。ハンナがそれに気付き、言った。
「あ、紹介するね。こちらはライズ・ハイマーさん。同じクラスの友達!」
友達?私のことだろうか?ハンナの視線の先には私以外いなかった。
「ライズ、こっちはソフィア・ロベリンゲ。V組の子だよ!」
「あ、あの、よろしくお願いします・・・」
ソフィアがいかにも女の子らしい声で言った。
私は、また頷いて答えた。
そして、本の続きを読み始めた。
「何を読んでいるんですか」
ソフィアがなんとしても、接点を探そうと声をかけてきた。
私は読みかけのページに指をはさみ、表紙を見せた。ハンナがそれを覗き込んだ。
「『真旅行記』?」
ソフィアがはっとして言った。
「それ、アルベルト・ジャンベルグの・・・」
私は頷いた。
「よく知っているわね。ドルファンでは50年も前に禁書になっているのに」
「だから知っているんです。この前、社会の授業で、先生がおっしゃっていたから・・・」
「アルベルト・ジャンベルグは、反体制主義の危険思想人物だと」
ソフィアは弱々しく頷いた。
この国では、反体制主義は危険極まりない思想だ。
もっとも、安全な反体制主義などないが。
「安心して。私は反体制主義・・・というわけではないし、この本もスィーズランドの実家にあったものを、暇つぶしに読もうと思って持ってきただけだから」
ソフィアがほっとして微笑んだ。
私はまた、続きを読み始めた。
「ねぇ、今のなんの話し?よくわからなかったんだけど」
ハンナには少し難しかったらしい。
ソフィアがあわててごまかして、他愛もないおしゃべりを始めた。
To be continued
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