みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          14

 私が三枚目のクッキーを食べ終え、二杯目の紅茶を注いでも、ソフィアとハンナはまだ楽しそうに喋っていた。
 真旅行記の四巻は読み終わった。残りはあと三巻だ。
 そろそろ部屋に戻ろうかと考え、新しい紅茶を口に含んだとき、ソフィアのカップの紅茶が一口分しか減っていない事に気付いた。
 ハンナにいたっては、一口も口をつけていないようだ。
 何をそんなに夢中になって話しているのか、少し気になった。
 新しい紅茶はまだ沢山残っている。
 本は読み終ってしまったが、彼女達の話を聞きながらお茶を楽しめば、時間の無駄にはならない。
 常に理にかなった行動をとっているわね、ミス・ライズ。
 私は彼女達の話に、ごくさり気無く耳を傾けた。
 「ソフィアも今年のクリスマスパーティー行くでしょ」
 「パーティーって、ドルファン城で開かれる?」
 「そうそう、あの豪華なパーティーだよ」
 どうやらクリスマスの日に行われる、ドルファン城でのパーティーの話のようだ。
 ドルファン城は普段、一般人に門戸を開いていないが、唯一クリスマスの日だけは別だ。
 中庭を開放し、国が主催で盛大なパーティーを行う。
 かくいう私も、それに参加する為にわざわざパーティードレスを送ってもらったのだ。
 ドルファン王国第一王女、プリシラ・ドルファンも例年会場に姿を現すという。
 プリシラ王女が公の場に姿をあらわすのは、クリスマスか王女の誕生日ぐらいなものだ。
 たまに城下にフラリと現れるが、例え公式訪問であっても事前連絡はないし、大概の場合はお忍びで、彼女が訪れた事さえ気付かない。
 確実にプリシラ王女の姿を見るには、クリスマスが一番手っ取り早い。
 ハンナが続けて喋ったので、私はまた話を聞きつづけた。
 「それでね、ボク、ダンスに誘いたい人がいるんだよね・・・」
 「誘いたい人?」
 どうやらクリスマスパーティーではダンスが行われるようだ。
 「うん・・・でもボク、どうやって誘ったらいいかわからなくてさ」
 「ダンスに誘いたい人って、誰?私も知っている人?」
 「あのさ、前にソフィア言ってたじゃん、波止場でごろつきにからまれたって・・・」
 「ええ・・・」
 「それで東洋人の傭兵が助けてくれたって・・・」
 「ええ、ハンナも知っているヒューイさんに」
 「そ、そのヒューイなんだ。ボクが誘いたいのって」
 「そうなの!?」
 これには私も驚いた。
 ここでもヒューイの名前が。
 「そうなんだ。ほら、ヒューイってスポーツマンだし、強いし、なんかちょっと恰好いいなって思ってさ・・・」
 「そうだったの・・・でも確かにヒューイさんは素敵だわ。すごく優しいしね」
 「そうそう!このまえだってね・・・」
 二人はいかにヒューイが魅力的であるか、競って話し始めた。
 私はもう聞く気もなくなって、残りの紅茶をゆっくりと飲んでいた。
 思いのほか身近なところで大人気のようだ。
 ハンナにいたっては大した熱のいれようだ。
 あの男のどこにそんな魅力があるのだろう?
 そんなことを考えても意味もないし、私はクリスマスにダンスを踊る気もない。
 紅茶を飲み干して、席を立った。
 ソフィアとハンナには、挨拶をしなかった。

                  
                            To be continued


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