みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          15

 12月24日の夜。
 今日は誰もが知るとおり、クリスマスイブだ。
 人々は陽気に歌い、家族や友人、恋人と時を過ごし、子供達はサンタの幻想を信じ眠れない夜を過ごす。
 私はプリシラ王女の姿を一目見るためだけに過ごしている。
 大した差ではない。
 サンタクロースは夢物語だが、プリシラ王女は実在する。
 その分私のほうがマシだ。
 私はあのパーティードレスを着て、揃いの大きなリボンで髪をまとめ、目立たないように会場を歩いていた。
 さっきレズリーに会ったが、彼女は胸元と肩の見える薄い黄色のまぶしいドレスを着ていた。
 他の人も皆美しく着飾っており、まるで一人一人が光を放っているかのようだ。
 私のドレスは茶色と緑、白でまとめてあってシックで落ち着いている。
 光あれば影あり。
 中庭が立食パーティーの会場になっていた。
 私はしきりにプリシラ王女の姿を探したが、みつかったのはザクロイド財閥の令嬢ぐらいだった。
 夜がふけていくにつれて人の数が増えていき、動きづらい。
 給仕が銀の盆の上にシャンパンの瓶とグラスを持って、私の横を通り過ぎた。
 私はその給仕に頼んで、紅茶を一杯もらった。
 シナモンティーだった。
 一口飲んだ。素晴らしい。王宮の味か。
 騒がしくきらびやかな会場の隅に、装飾過剰のツリーが寂しく立っており、私はその影でゆっくりと王宮の紅茶を味わった。
 ここにはプリシラ王女の姿はない。あとは中のダンスホール・・・
 考え込んでいると、一人の東洋人がツリーに近づいてきた。
 巷で大人気のヒューイ・キサラギ隊長ではないか。
 彼は私に気が付くと、温かみのある微笑を浮かべた。
 「メリークリスマス、ライズ。聖夜をいかがお過ごしかな」
 「人並みに楽しんでいるわ。あなたも来ていたのね」
 「祭り事は嫌いではないんでな。それに・・・」
 彼は手にもったシャンパンのグラスを少し持ち上げた。
 「オレたちの給金じゃ、滅多にのめない酒もあるし・・・な」
 そう言って彼はまた笑った。
 私は笑わなかった。しかし、彼が気にしている様子もなかった。
 私のカップのシナモンティーは、もう無くなっていた。
 こんな所で、クラスメイトのダンスパートナー相手に、油を売っているほど暇ではない。
 「私は用があるので、これで失礼するわ。ハンナがきっとあなたを探しているはずよ」
 私はそう言うと、空のカップを手近なテーブルにおいてその場を離れた。
 何故かわからないが、彼と一緒にいるのが嫌だった。
 また微笑んでしまうのも嫌だった。
 私が今夜すべき事と、クリスマスという浮かれた行事とのギャップが腹立たしかった。
 ダンスホールに入るとき、一度ツリーの方を振り向いた。
 可愛いドレスを着たソフィアとハンナが、ヒューイと笑顔でなにか話していた。
 今更ながら彼が軍の礼服を着ているのがわかった。
 
                      To be continued


続きを読む >前に戻る >一覧に戻る >第0話を読む  >最新版を読む(mixi)


雑多図書館徹底攻略みつめてナイト> SS保管庫