みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          16

 ダンスフロアは、すでに多くの人でにぎわっていた。
 しかし丁度中休みのようで、楽団は演奏をしていなかった。
 私は談笑している人々をかきわけてフロア中を歩き回り、王女の姿を探した。
 いない。これでは何のために来たのかわからない。
 と、その時、人々の間にざわめきが起こった。
 何事かと思い、彼らの視線の先をたどって、思わず身を乗り出してしまった。
 奥の間へと通じる扉の上にあるバルコニーに、彼女が立っていた。
 豊かな金髪は縦にいくつも巻いてあり、小さな王冠がアクセントのように載っている。
 見たこともないような上等のドレスは彼女が軽やかに歩くたびに優雅に揺れる。
 緋色のマントがあつらえたように似合っていた。
 まだあどけない少女の面影が残るその面立ちは、気品に溢れていた。
 そして、彼女、プリシラ・ドルファンは輝かんばかりの笑顔を浮かべて言った。
 「メリークリスマス!皆さん、楽しんでいますか?今夜は常の忙しさを忘れて、最後まで存分に楽しんいって下さい!」
 もう一度まぶしい笑顔を見せて、彼女はカーテンの裏に消えた。
 その顔は忘れない。絶対に。
 人々がわあっと大きな歓声を上げる中、不意に楽団が音楽を奏で始めた。
 しまったと思った時にはもう遅かった。
 私はフロアのほぼ真ん中にいたのだ。
 誰かパートナーを見つけて一曲踊らなくてはならない。
 これではまるで自己主張の強い、滑稽な女だ!
 すでに何組かのカップルが円を描きながら、ワルツの調べにのせて華麗にフロアを舞っていた。
 仕方なしに辺りを見渡すと、知っている顔を見つけた。
 頼りがいのない傭兵、リン・コーユーだった。
 彼も私に気付き、おどおどと近寄ってきた。
 「ら、ライズさん、メリークリスマス!まさか会えるとは思っていませんでした・・・」
 私は軽く頷いて答えた。
 「そんなことより、踊るわよ。ここで立って世間話は出来ないわ」
 「そ、そうなんですか?会場をうろうろしていたらここに紛れ込んじゃって・・・」
 私は呆れてため息をついた。
 そして素早くリンの手を取って、リズムに合わせて踊り始めた。
 意外にもリンはダンスが上手かった。
 「あなたが踊れるなんて、意外ね」
 彼は照れて笑った。
 「いやあ、剣術よりもこっちの方が好きなんです。ダンスにはちょっと自信があります」
 「そう。なんでも秀でている事があるのは、いい事だわ」
 しばらく踊っていると、曲が終わった。
 私は礼式通り、スカートの裾を軽くつまみ、会釈した。
 「もう一曲、踊りませんか」
 「そんな暇ないわ」
 私はその場を離れたくて、それだけ言うとリンの方を見もせずに、歩き出した。
 ハンナはヒューイと踊れたのだろうか?
 そんなどうでもいい事がなぜか浮かんできて、私は足早に会場を出た。
 その場面は見たくなかった。


                        To be continued


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