みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          17

 新年を迎え、冬が本格的に寒さを増す頃。
 私は冬休みを利用して、ほぼ毎日調べ物をしていた。
 国立図書館の書庫はスィーズランドよりもかなり小さかったし、受付の女性の対応速度は半分以下だった。
 だが私が調べたかった事は、一週間でほぼ調べ終わった。
 ドルファン王家の歴史、プリシラ王女の出生。
 プリシラ王女の公式訪問での日程、行程、過去どこを訪れたか。
 彼女を暗殺したところでヴァルファの戦況が有利に運ぶとはいかないが、一瞬の動揺を作る事が出来るかも知れない。
 それを機に、プロキアが再び攻撃をしかければ言う事無しだ。
 プロキアでなくても構わない。
 ヴァン=トルキアでもいいし、ハンガリアでもいい。
 とにかくドルファンの国政に一箇所のひび割れを作れれば、お父様は目的を達成できる。
 すっかり夢中になって、気が付くとすでにあたりは暗くなっており、動作の遅い受付嬢が迷惑そうに私を見ていた。
 「そろそろ閉館時間ですよ」
 「あなたがさっきの本を、もう少し早く見つけてくれればこんな時間までいなかったわ」
 「そんな言い方しないで下さい!私だって一生懸命やっているんです」
 「職を変えたほうが賢明だわ」
 私を震え上がらせようと、彼女はこちらを睨んでいた。
 私は軽くため息をついて見せて、震え上がってない事を教え、外に出た。
 外は肌を刺すような北風が吹き渡り、人の数も少なかった。
 城東大通りの燐光灯の仄かな灯りに照らされながら、私は寮へと急いだ。
 馬車がストライキで完全に止まっていたのは誤算だった。
 大通りを抜けて、寮のあるフェンネル地区までは夜だとあまり人通りもない。
 今夜は月もなく、仮に人を襲うならばもってこいだ。
 そんなことを考えていると、後ろに気配を押し殺し、尾行してくる二人の男に気付いた。
 やれやれ、占い屋でもはじめた方がいいかもしれない。
 その尾行はお粗末なもので、私が例え素人だったとしても気付いたはずだ。
 彼らが歩速をあげて距離を詰めてきた。
 私は鞄の中から護身用のダガーを気取られないように取り出した。
 備えあれば憂い無し。私のような人間は、どこで命を狙われても不思議はないのだ。
 一人の男が走り出し、私に飛び掛ってきた。
 私は十分に引き付けておいてから、振り返りざまにダガーの一撃を見舞った。
 横一直線に切り払ったダガーから、軽い手ごたえが感じられ、鮮血が冬の夜空を舞った。
 私が先手を打って攻撃するなど、まるで考えていなかった男は、右上腕部と胸を切り裂かれ地面に転げた。出血量と手ごたえからしても、おそらく軽傷だろう。
 「な、なに!?」
 もう一人の男があわててベルトに挿したナイフを引き抜こうとした。
 私はすでに彼の懐に飛び込んでおり、その首筋にダガーを突きつけていた。
 「て、てめえ、何者だ!?」
 男の声はかすれており、ぜーぜーとしていた。
 喉の奥から恐怖とともに搾り出したような声だった。
 「それはこちらのセリフだわ。あなたたち、何者なの」
 「お、おれ達は頼まれて、あんたを殺せば金、金が・・・」
 その時、さっき腕と胸を切り裂かれた男が立ち上がり、ナイフを片手に後ろからせまるのが、視界の隅に映った。
 私はまさにそれを警戒していたので、素早く前の男を突き飛ばし、その攻撃を避けた。
 そしてダガーを握り直すと、攻撃を仕掛けてきた男の首筋に先ほどの男のときと同じように刃を押し付けた。
 「動くな。動けばこの男の命はないわ。それにあなたの実力では私を殺せない」
 突き飛ばされた男は、よろよろと立ち上がり、観念したようにナイフを捨てた。
 「わ、判った。だからそいつを殺さないでくれ」
 「物分りが良くて助かるわ。図書館の受付に向いているわよ、あなた」
 「は?」
 「いいえ、こっちの事。それよりあなたを雇ったのは誰」
 「それが・・・教会のしん―」
 言いかけて男の体がぐったりと地面に倒れた。
 私は瞬間的に恐怖というか、得体の知れない何かを感じて飛び退いた。
 今まで私が押さえていた男の体に、鋭い何かが突き刺さり、もしも私がそこにいれば串刺しになるところだった。
 「いやあ、お見事。さすが・・・とでも言いましょうか、サリシュアン」
 闇の向こうから、聞き覚えのある声が響いた。
 その声に私は吐きそうなほどの嫌悪感を持った。
 「何故ここにいるの・・・ゼールビス!!」
 男の死体から武器を引き抜き、ヴァルファ八騎将の一人、血煙のゼールビスは私を見ていやらしく笑った。

                      To be continued


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