みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          19

 次の日に、始業式があり学校生活が再び始まった。
 私はとてもではないがそんなものに参加する気にはなれなくて、学校を休み馬車に乗っていた。
 行き先はサンディア岬駅だ。
 正午の少し前に私はサンディア岬駅に着くことが出来た。
 平日の昼時にこの駅を利用する者はほとんどいない。
 人気もなく、閑散としている。
 風がほのかに海の香りを運んできた。
 岬と言うくらいだから、海が近いのだ。
 駅から海に向かって小高い丘を登って、目指す場所へと急いだ。
 「私はドルファン教会にいますよ、サリシュアン。懺悔でもしたくなったらいつでも来てくださいね。ふ、ははは!」
 あのときのゼールビスの声が耳にこびりついて離れない。
 つい一昨日のトピックスには、中東で名を馳せた爆弾テロのスペシャリスト、アジル・メサムが遺体になって発見されたニュースが載っていた。
 犯人はわかっていないが、間違いなくゼールビスだろう。
 同じ爆弾を使ったテロリストとして、邪魔だったのだ。
 あの男の狙いはなんなのか?
 もしもヴァルファに不利な状況を招くような事を企んでいるのなら、排除しなければならないかもしれない。
 私は手に持った細長い赤い革の袋を抱いた。
 必要とあれば私の独断であの男を消す!
 目指すドルファン教会が見えてきた。
 白い壁に美しいステンドグラス。そして教会だと主張するための十字架。
 そのすべてがゼールビスには不釣合いだ。
 私は重い扉を開き、教会の中へと入った。
 中は大きなステンドグラスからこぼれる光で、意外なほどに明るかった。
 「あら、こんな時間に珍しい」
 奥からシスターらしき人物が声をかけてきた。
 白い修道服を来たその女性は私を見てにっこりと笑った。
 「ドルファン教会へようこそ。本日はどんなご用ですか」
 「祈りに来たわけではないわ。ゼール・・・いいえ、神父はどこにいるかしら」
 「まあ、神父様のお知り合いですか」
 「そうね、そんなところだわ」
 彼女は怪しむそぶりも見せずに、奥の扉の方を見た。
 「あちらの扉から裏の共同墓地に行けます。多分そちらにいると思いますよ」
 「そう。ありがとう」
 言われた通りに裏への扉を抜けていくと、目の前に広々とした芝生と一杯に並んだ墓石、そして雄大な海の景色が広がった。
 私はゆっくりと墓地に入っていった。
 精神が油断なく張り詰めているのでピリピリとしていた。
 ゼールビスならば物陰から私を刺すなど当り前にやってのけるからだ。
 墓地の中を歩いていると、突然強い海風が吹いた。
 私の三つ編みが風になびいて大きく揺れて、それと同時に少し先の一角から花が舞い上がった。
 誰かが供えた花だろうか?
 そう思ったときに不意にその角から一人の女性が立ち上がった。
 「・・・・・・」
 物憂げに舞い上がった花をみつめるその眼差しには、深い悲しみと気丈な強さが見えた。
 彼女は私に気付くと、遠慮気味に微笑んだ。
 「風でせっかくの花が台無しになってしまって・・・」
 「そうね。仕方ない事だわ」
 「そうよね、こんな海に近いところですものね」
 彼女は深い緑色の長い髪をした、二十代後半の美しい人だった。
 彼女はコートの裾をそっと抱き寄せ、寒そうに肩をすくめた。
 「年をとるとダメねえ、寒さが身にしみるわ」
 「・・・このあたりで教会の神父を見なかったかしら」
 「神父様?そうねえ、私が来たときにはいなかったわ。丁度お昼時だし、どこかにお出かけになっているのかもね」
 「そう・・・」
 ゼールビス・・・どこまでも人を欺き、常に苛立たせる男だ。
 「あなたはお墓参り?」
 彼女の声に私はハッとして、あわてて答えた。
 「別に・・・ちょっと人を探していたの」
 「神父様ね」
 「そうよ。いないみたいだし、日をあらためるわ。それじゃ」
 私はそう言って来た道を引き返そうとした。
 その時、教会からシスターがこちらのほうに歩いてきた。
 「あら、神父様には会えませんでしたか」
 「ええ。いなかったわ」
 「そうですか・・・そうだ、今丁度お茶にしようと思っていたんです。よろしければご一緒しませんか?その間に神父様も帰ってくるかもしれませんわ」
 「そうね・・・」
 私が考えていると、さっきの女性が私の横に来た。
 「あら、クレアさん。もうお済みですか」
 「ええ、今日はこれくらいにしておくわ。あまり長くいても、主人が喜ぶとも思えないし」
 そう言ってその緑色の髪をした女性はくすっと笑った。
 「いつもシスターとお茶をご一緒してるんです。たまには若い方の話もきいてみたいのよ。ね、いいでしょう」
 とりあえずこれで帰るよりは、ゼールビスに会う確率は高いかもしれない。
 お茶を飲むのは気が進まないが、ゼールビスに物陰から刺されるよりはましだ。
 「構わないわ」
 私が答えると、その女性は嬉しそうに微笑んだ。
 「良かった。そうそう、私の名前はクレア・マジョラム。よろしくね」
 「ライズ・ハイマーよ」
 私たちは教会の中へと引き返した。

                  To be continued
 

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