みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
20
礼拝堂の奥の小さな部屋に案内されて、私はクレア・マジョラムと一緒にソファに座っていた。
一緒に座りたくなどないが、椅子がそれしかないのだ。
「あなた、学生さん?」
クレアの問いに、私は頷いて答えた。
「そうよ」
「ドルファン学園かしら?それとも学院のほう」
「学園よ」
「まあ、そうなの。私もね、ドルファン学園の卒業生なの。あなたの先輩ね」
そういって微笑んだ彼女の笑顔は、どこか少し憂いを含んでいた。
「お待たせしました」
隣のキッチンから紅茶のカップを三つ、銀の盆に載せてシスターが入ってきた。
私たちの前に小さなテーブルを引き出すと、そこにきちんとカップを置いた。
その手に、私は不自然な感じを覚えた。
私の手と、同じ感じがするのだ。
一般の生活をしていたら、絶対にできるはずのないマメやタコのあとだ。
彼女の右人差し指にある痕は、スナイパーが銃を構えるときに出来るものと酷似している。
もしやこのシスターもゼールビスと何か関係があるのかもしれない。
私は彼女に油断する事だけはやめる事にした。
シスターは折畳式の椅子を器用に組み立てて、そこに座った。
「狭いところで申し訳ありません。さ、冷めないうちに召し上がってください」
「ええ、いただきます」
クレアがお茶をとったので、私も一口すすった。
「!スィーズランドのウッドスター社のアッサムティーだわ・・・」
思わず私がそう言ったのに、シスターは嬉しそうに頷いた。
「あら、よくご存知ですね。私、紅茶だけはこだわりがあって、ここの紅茶が大好きなんです」
「そう。私も紅茶はスィーズランド製が好きだわ」
驚いた。こんな所でおいしい紅茶が飲めるとは、思ってもみなかった。
何者かはともかく、このシスターの紅茶の趣味だけは良さそうだ。
私たちの会話を聞いて、クレアが感心したようにカップを見ていた。
「すごいわね・・・。私、おいしいとしか感じなかったわ。だめねえ、年をとると。物事に対する探究心がなくなってくるのね」
それは年をとることと関係のないことだが、口には出さなかった。
「今度お店の店長にたのんで、紅茶の仕入先をここにしてもらおうかしら」
「それがいいですよクレアさん。私が自信を持っておすすめします」
「そうねえ、最近うちのお店にも未成年の常連さんが出来たから、きっと喜ぶわ」
未成年の常連?と言う事は、未成年を対象にした店ではないと言う事だ。
「クレアといったわね。あなた、何処で働いているのかしら」
「あら、ごめんなさいね、勝手に盛り上がっちゃって。私、サウスドルファン駅の近くのバーで働いているの」
「地下のお店ね」
「あら、知っていた?そこで、バーテンやポーカーのディーラーをやったりしているの。いわゆるパートタイマーよね」
「そう」
彼女くらいの年齢の女性が働かなくてはならないのには、それ相応の理由がある。
ドルファンの大抵の女性は、20代半ばで結婚して専業主婦になるからだ。
それゆえに、ドルファンでの職を持つ女性は若い人に限られている。
クレアは私をまじまじと見てつぶやいた。
「丁度、あなたぐらいの年の女の子が最近よく来てくれるの。雰囲気が気に入ったって言ってね。もちろんお酒はださないけれど」
「そう」
「その子もドルファン学園の生徒さんよ。確か、名前はレズリーさん」
「レズリーですって?」
「あら、知っているの?」
「え、ええ。クラスメイトだわ」
「まあ、偶然ね!今度会ったらよろしく伝えて」
「ええ、わかったわ」
こんな所でレズリーの名前が・・・。世間とはせまいものだ。
「そういえばね、」
クレアがシスターの方を見て言った。
「この前、そのレズリーさんが、ヒューイさんと一緒にお店に来たのよ」
「まあ、本当ですか!」
「ヒュー・・・イ」
私は愕然として、と言うか半ばあきれてつぶやいた。
「あら、ヒューイさんもご存知?」
「ええ、顔見知りだわ」
「うふふ、世間ってせまいものね。私もレズリーさんがヒューイさんを連れてきたときは驚いたけどね」
私は自分の住む世界があまりにもせまく、ばかばかしく思えて、しばらく紅茶を飲む事すら忘れていた。
To be continued
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