みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
22
窓から朝の光が差し込み、私は目を覚ました。
洗面所で顔を洗い、制服に着替えて、いつもの三つ編み、いつもの手袋。
いつもと変わらない朝を、いつもと変わらない憂鬱な気分で迎えた。
部屋の窓を開けると、日の光があたたかでやわらかく、風の匂いは甘い木の芽の香りがした。
ドルファンにも春がやってきたのだ。
少しだけ気分が軽くなるのを感じて、私は机に向かった。
走り書きのメモを純銀のペーパーナイフで切り取り、鞄に入れた。
このペーパーナイフは一月の私の誕生日に、ヒューイがくれたものだ。
それ以来、彼とは会っていない。
あの日、ゼールビスに会いに教会に行き、クレアと知り合い、その話を聞いてからというものどうにも釈然としない。
常に気分が滅入っており、結局ゼールビスに会う事もなかった。
戦争の方もこれといった動きがなく膠着しており、比較的平和な毎日が続いている。
なんだか、この国に潜入している事が無意味にさえ感じていた。
朝食を食べに食堂に行くと、まだ早い時間だったので席はがらがらだった。
窓際の席をとっておいて、カウンターからトースト一枚とママレード、トマトのサラダの小さなボウル、ポーチドエッグにミルクをトレイに載せて席に戻った。
四月も半ばになれば、朝にコーヒーを飲まなくても平気になる。
ママレードを塗ったトーストをゆっくりと食べ、サラダをレタス一かけらづつ食べていると、隣の席にレズリーが座った。
「おはよう、ライズ。隣、いいかい」
「構わないわ」
レズリーのトレイにはトースト二枚とブルーベリイジャム、ハムエッグにマッシュポテト、さらにソーセージが三本とコーヒーが載っていた。
それだけで一日の必要カロリーの半分はとれそうだ。
彼女は山羊が紙を食べるようにあっという間にトーストを二枚食べた。
私はその間にゆっくりとポーチドエッグを味わった。
ハムエッグとマッシュポテト、ソーセージを早々に食べ終え、ようやくコーヒーを飲んで一息ついたようだ。
その頃には私もようやくサラダを食べ終えた。
「すっかり春らしくなったな」
レズリーが窓の外を見て言ったので、私は頷いて答えた。
「そう言えば、」
ハムエッグのかけらをフォークでいじっている。
「ダナンへの第二次派兵が決まったんだってな」
「え?」
私はミルクを飲む手を止めて、レズリーを見た。
レズリーは私を見ずにスカートのポケットから四つ折の紙を取り出して、私の方に押し出した。
広げてみると、それはトピックスの号外だった。
私が来たときはまだ配っていなかったようだ。
ざっと目を通すと、確かにダナンへの第二次派兵が行われると書いてあった。
ダナンはプロキアとの国境線にあるドルファンの都市だ。
去年の夏に起きたヴァルファとドルファンとの戦争により、ダナンは陥落。
今はヴァルファの指揮下にある、いわば拠点地だ。
だが、今やプロキアはヴァルファの敵であるし、事実上ヴァルファはダナンに取り残されていると言っても過言ではない。
もともとダナンはドルファンの政治の中枢、王室会議の4議席の一つであるベルシス家が統治している。
だが同じ王室会議のピクシス家との折り合いが悪く、さらに現国王の死別したと言われる兄王を支持していた事もあり、その情勢はほぼ分権化している。
もしも第二次派兵が決まれば、それはヴァルファ対ドルファンの全面戦争になるだろう。
そんなことを考えていると、レズリーが吐き捨てるように言った。
「なんでもいいから、戦争なんて早く終わればいいんだ」
私は答えず、トピックスの号外を返した。
彼女はそれを受け取ると、くしゃくしゃにして空の皿の上に捨てた。
「戦争なんて馬鹿げたこと、なんで起きるんだ!?」
私はレズリーの言葉など、上の空だった。
To be continued
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