みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          26

 戦争が間近に迫っていても、ドルファンの街はあまり変化が無かった。
 私は自分自身が何をしているのか判らなくなっていて、ただ毎日を呆然と過ごしていた。
 あれ以来ソフィアとは会っていないし、学校も休みがちだった。
 だからその日も、学校を無断欠席して、ただ街の中をさまよっていたのだ。
 「ライズ!」
 城東大通りで声をかけられても、それが誰だか最初はわからなかった。
 振り向いて初めて、久しぶりに見るヒューイ・キサラギだと言う事がわかった。
 「ああ、久しぶりね」
 「なんだ、つれないな」
 彼は少しふてくされて見せると、意地悪な笑みを浮かべた。
 「こんな所で何やってるんだ?今日は学校じゃないのか」
 「別に・・・あなたには関係ないわ」
 「そりゃそうだ。だけど、そんな浮かない顔してたんじゃ、せっかく学校サボっても楽しくないだろ」
 私は大げさにため息をついた。
 戦争が目前だと言うのに、何故彼はこんなにお気楽なのだろうか?
 勝利を確信した者の見せる、余裕というものなのだろうか?
 「あなたは気楽でいいわね。見習いたいわ」
 「そうか?まあそんな事はどうでもいいさ。オレも丁度暇してたんだ。一緒にどこか行かないか」
 「悪いけどそんな気分じゃないわ」
 「まあまあ、いいからいいから。楽しい所行って、嫌なことなんか忘れちまえ」
 半ば強引に彼は私を誘い、セリナリバーの方へと歩きだした。
 並んで歩きながら、今この場で彼を殺してしまえば、ヴァルファに少しは有利になるかどうか考えた。
 だが、彼一人いなくなったところで、ドルファンの万の軍勢が変わるわけでもないので諦めた。
 セリナリバーは鉱石運搬用に作られた人工の水路で、その流れに沿って遊歩道がある。
 静かな水の流れと、等間隔に植えられた木々、落ち着いた雰囲気で若いカップルに人気の高い道だ。
 私とヒューイが歩いている事自体、大きな間違いなのだが、側から見ればただの男女なのだろう。
 「平日のこの道は静かでいいな。日々の忙しさが嘘みたいだ」
 それは同感だった。
 カップルさえいなければ、鳥のさえずりさえ聞こえる心休まる通りなのだ。
 「そうね・・・もしかしたら、こんなのに憧れていたのかもしれないわ・・・」
 「うん?何か言ったか」
 「いいえ、なんでもないわ。ところで、どこに向かっているのかしら」
 「ああ、あそこさ」
 そう言って彼が指差したのは観光用のゴンドラ乗り場だった。
 「オレ、まだ一度も乗った事がないんだ」
 「そう」
 「ライズはどうだ」
 「ないわ。特に乗る必要もないもの」
 「そうか。じゃあ丁度良かったな!」
 彼は船頭に料金を払うと、私の手を取って先に乗せ、嬉々としてゴンドラに乗り込んだ。
 「楽しみだな!」
 ゴンドラはゆっくりと桟橋を離れ、ゆるやかな速度で水路を滑っていった。

                     To be continued

 
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