みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          28

 五月一日の朝、私は昼前に寮を出発した。
 今日は五月の恒例行事、五月祭で人々は収穫祭の時と同じ衣装を着て街は賑わう。
 何を基準にして選んでいるのかわからないナイスガイコンテストや、五月の花嫁コンテストで盛り上がる。
 その分人出も多く、警備も厳重になっている。
 収穫祭の時と同じく、酔っ払いや騒ぎに便乗した犯罪などを阻止する為だ。
 だが、私には願っても無いチャンスだ。
 人の波に飲まれながらサウスドルファン駅まで歩き、そのまま駅前を突っ切り、ドルファン城の前まで来た。
 ここにもまだ人の姿が多く見られる。
 私は例の祭り衣装は着ていなく、ノースリーブの灰色のワンピースの下に黒いズボンを穿き、同じ色のローヒールという出で立ちだ。
 これならばどこからどう見ても五月祭の見物客にしか見えない。
 ドルファン城前の道へと右折して、少し歩くと人通りも無くなり、歩いているのは私一人になった。
 この地区は裁判所をはじめ、この国の政治を司る機関が多く、お祭りの日にここを訪れる者はいない。
 真っ直ぐに歩き、軍統合部の前を通り過ぎた。
 素早く廻りを見渡し、誰もいないのを確認するとサッと脇道にそれた。
 軍統合部を囲う煉瓦の高い壁にピッタリと体を押し付け、少し進んだ。
 左右に人の気配はない。
 思った通り、今日の軍部は手薄だ。
 私は壁から離れ、少し助走をつけて飛んだ。
 ぎりぎりで右手が塀の上部に引っかかった。
 全身の力を振り絞り、左手、体、足と塀の上にのせていき、中を覗いた。
 見回りはいない。
 音も無く内側に飛び降り、手近な木陰に身を隠した。
 そこで二分ほどかけて息を整えると、改めて軍統合部の建物を見上げた。
 茶一色のブロック積みの真四角の建物で、いかにも重厚な造りは見るものを威圧的に圧迫する。
 
 そう、私はここに忍び込もうというのだ。
 この前にヒューイとゴンドラに乗った日から私は何かが変った。
 言うならば良い意味で吹っ切れたのかもしれない。
 例え今日、戦争に関する重要機密文書を発見したとしても、戦況は変らないだろう。
 だが私は八騎将の一人、隠密のサリシュアン。
 戦況に変化が無くともヴァルファにとって少しでも有利な情報を届ける。
 それが私の使命なのだ。
 
 開いている窓を探した。無い。すぐ近くの窓は閉まっている。
 中はどうやら小さな会議室のようだ。
 いくつかある小会議室の一つだろう。
 祭りの当日に小会議室を使うようなことは無いだろうとタカをくくり、髪止めのピンを一本引き抜いた。
 もう一度まわりを確認してから素早く窓に取り付き、鍵穴にピンを差込み、五秒足らずで開ける事に成功した。
 これは父の側近、幽鬼のミーヒルビスにしこまれた開錠術だ。
 窓を開け、中に滑り込み、再び閉めた。
 鍵をかけてふっと一息ついた。
 とりあえず忍び込む事には成功した。
 

                     To be continued



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