みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          33

 戦場から、なんの報せもないまま一週間が過ぎた。
 私は毎日学校に行き、校舎の窓から戦場の空を眺めていた。
 土曜日の夜にレッドゲートが開かれ、傷ついた戦士たちが凱旋した。
 みな疲れ果て、一様に足取りが重いが、その表情はどことなく明るい。
 微笑を浮かべる者もいるし、故郷に戻り歓喜の涙を流す者もいた。
 彼らの表情を見た瞬間、私はすべてを理解したような気がする。
 ヴァルファは敗れ、彼らドルファンの騎士達は勝利したのだと。
 しかし何の動揺も感じなかった。
 むしろ、それが当り前の事のように感じる。
 負け戦は、始まる前から負け戦なのだから・・・。

 一夜明けた日曜日の朝、私はキャラウェイ通りをあてもなく歩いていた。
 勝利の文字が大きく書かれたトピックスの号外が、道端にたくさん落ちていて汚れていた。
 ここを歩いていれば、あの東洋人傭兵に会えるかもしれない。
 私は彼の姿を探して、こんな所を新聞紙を踏みながら歩いているのだ。
 午前中はなんの収穫もなかった。
 街中が勝利の喜びにお祭り騒ぎになっていて、私だけ浮いている気がした。
 昼食もとらずにまたあてもなくぶらぶらと通りを行ったり来たりした。
 もう何往復しているだろうか?
 朝早くにトピックスの号外を配っていた男が、新しい号外をもってきて、またそこら中にばら撒いていた。
 もしかしたら彼は死んでしまったのかもしれない。
 よくあることだ。
 死人のでない戦争はない。
 これ以上ここにいても仕方がないと思ったとき、彼がなんの前触れも無く視界に現われた。
 「よう、ライズ。なに世界の終わりみたいな顔して歩いてるんだ」
 私は驚いて声も出なかった。
 今の今まで探してた男が、突然あらわれたのだから。
 何を言っていいかわからずに黙っていると、ヒューイは私の顔を覗き込んだ。
 「なんだ?その幽霊でもみたようなリアクションは」
 私はどうにか平静を装い、呟いた。
 「突然声をかけないで欲しいわ。か、考え事をしていたから、驚いたのよ」
 「それは悪かったな」
 彼は反省するそぶりなどこれっぽっちも見せずに微笑んだ。
 「どうやら死なずにすんだようね」
 「まあな」
 「号外で勝利を伝えているけど、実際のところどうなの」
 彼は不思議そうな顔をした。
 「トピックスの通りさ。勝った。一応はな」
 「一応」
 「ここじゃなんだ。どこか静かな所にでも行って、話さないか」
 「構わないわ」
 彼は頷いて、ゆっくりと歩き出した。
 私は彼の横に並んで歩いた。
 冷静に観察してみると、興味深い点を色々とみつけた。
 長袖の服を着ているが、左手が右手よりも太い。
 これは服の下に包帯を巻いているからだろう。
 いつものとおりに歩いているようだが、少しだけ左半身をかばうような歩き方だ。
 そして首や頬の露出した部分に、いくつもの細かい擦り傷や切り傷がある。
 彼も戦場で戦ってきた事を、否が応でも感じさせた。

                     To be continued


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