みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

          35

 次の週は天気が落ち着かず、ほとんど毎日のように雨が降っていた。
 今日も昨日からの雨が降り続き、私とソフィアは傘をさしながら歩いていた。
 あの日以来、たまにソフィアと帰る日があり、今日もそのうちの一日だった。
 「そう、この前の歌姫一般公募のオーディションが」
 「はい。昨日手紙で送られてきました」
 そう言って傘を肩と首に挟みながら、器用に鞄から一通の手紙を取り出した。
 「読んでみてください」
 私は頷き、手紙を開いた。
 内容はいたって簡単だった。
 来週の日曜にオーディションを開催するので、シアターに指定時刻に集合せよとの事だ。
 「そ、それで・・・」
 ソフィアは私が読み終わるのを待っていたかのように言った。
 「良かったら、その・・・観に来てもらえませんか」
 「私が?」
 「は、はい。一人だと緊張しちゃって・・・一緒に来てもらえれば、落ち着いて頑張れそうな気がするんです」
 「呆れたわね。歌姫になったら、大勢の人前で歌うのなんて当り前なのよ」
 「それはわかっているんですけど・・・」
 ソフィアはうつむいて口篭もった。
 やれやれ、仕方のない子だ。
 「わかったわ」
 「え!?」
 「シアターに行くわ。ただ、観させてもらうだけよ」
 「ええ!ありがとうございます!」
 途端にソフィアの顔が明るくなった。
 まったくころころと表情の変わる、まるで猫のようだ。
 それからしばらく話していると、いつの間にかいつもの分かれ道にきていた。
 ここからソフィアは右に。私は左に帰る。
 たまにソフィアと下校するようになってからは、いつもここで別れるのだ。
 「それじゃ、ライズさん、約束ですからね!」
 「ええ」
 「また明日、学校で」
 振り返るソフィアに軽く手を上げて見せると、私は寮の方に向かって歩き出した。
 だが、寮に帰るつもりはない。
 さっきからずっと気になっていたのだが、誰かが私を尾行している。
 最初は気付かなかったが、時折後ろにぴったりとくっついてくる気配と、茶色いマントを何回か見た。
 この私に今まで気付かれなかったとは、かなりの熟練者とみてまず間違いはない。
 学生寮の前を素通りすると、私はカミツレ高原行きの馬車をつかまえて乗り込んだ。
 大した相手でなければこれでまけるはずだし、これでまけなかったら私も覚悟をする必要がある。
 しばらく馬車に揺られていたが、怪しい人影もなければ、数人の他の客も私より前から乗っていた客だ。
 それなのに私を食い入るように見つめる視線を感じっぱなしだ。
 途中レリックス駅で馬車を降りた。
 ここからは遺跡群が近く、雨の日ならば人出はほとんどない。
 遺跡は身を隠すのに利用することも出来る。
 ここで私を尾行するなどという大それた行動をとる人物を捕える。
 私はぶらぶらと遺跡を見るようなふりをして、ゆっくりと歩いていた。
 だが、とある建物の遺跡の影に入った瞬間、傘を捨てて全速力で走った。
 後ろで慌てて駆け出す足音が聞こえた。
 どうやら足音を消して走る術は知らないようだ。
 ならば素人だろうか?
 それにしては気配の消し方があまりにも上手すぎる。
 私は追跡者から十分な距離をとったことを感じながら、次の遺跡の柱の影に身を隠した。
 鞄の中から護身用の例のダガーを取り出し、鞘から抜き放った。
 場合によっては殺さなければならないかもしれない。
 呼吸をととのえ、追跡者の気配を探った。
 雨の音が急に大きくなったように感じた・・・


                     To be continued


続きを読む >前に戻る >一覧に戻る >第0話を読む  >最新版を読む(mixi)


雑多図書館徹底攻略みつめてナイト> SS保管庫