みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 教会の中は真っ暗で、ゼールビスの持つランプの明かりと、わずかな窓からの星明りのみが頼りだった。
 ゼールビスは勿体つけて司祭の教卓の上にランプを置き、説教でも始まるかのように立った。
 かの金髪の剣士エレーナは教徒用の長椅子に光が届くギリギリの場所に足を伸ばして座った。
 左手には油断無くサーベルレイピアをいつでも抜けるように持っていた。
 私はなるべく窓に近い場所に体を預けながら立っていた。
 神聖な教会とは言え、ここはゼールビスのテリトリーだ。
 この男なら、この場で女性を強姦した上に殺したとしても、次の日にミサを行うだろう。
 エレーナの青い瞳が私をきつく睨みつけていた。
 私はエレーナとゼールビス、二人に注意を払わなければならなかった。
 「そんなにいがみ合って、どうするんです」
 ゼールビスはいつもの含み笑いを混ぜた声で喋った。
 「サリシュアン、彼女を紹介しますよ。名前はエレーナ・ロストワ。シベリアから来たんですよ」
 私は黙ってエレーナを見ていた。
 なるほど、シベリアの出身ならば、あの氷のような白い肌も説明が付く。
 エレーナは不機嫌そうにゼールビスを見ると、声を荒げて言った。
 「ミハエル、余計なことを言うな。だいたいこいつは何者なんだ」
 もっともな疑問だった。
 彼女にしてみれば、私はただの不審な女だ。
 ゼールビスは一度私を見ていやらしく笑った。 
 「彼女はヴァルファバラハリアン八騎将の一人、隠密のサリシュアンです。私の同僚ですよ、ふふふ…」 
 「同僚ではないわ。あなたはもうとっくにヴァルファを除名されている」
 私の抗議などまるで意に介してないように、ゼールビスは不気味に微笑むばかりだ。
 まったく食えない男だ。
 この不気味さと、爬虫類のような独特のヌルリとした暗い雰囲気は、今もって慣れない。
 「それで」
 私は言葉を続けた。
 「そのシベリアのお嬢様が、ドルファンに潜入するテロリストと一緒に何をやっているのかしら」
 私の質問にエレーナは顔をしかめ、そっぽを向いてしまった。
 かわりにゼールビスが答えた。
 「ビジネス…仕事、ですよ。ふふ、詳しくは言えませんが、ヴァルファにも有利な内容ですよ」
 「……」
 私はまた沈黙を守った。
 ゼールビスの言う事を信じるくらいなら、サンタクロースの存在を信じた方が、よほど信憑性がある。
 「ですので、エレーナとサリシュアンが剣を交える必要は、全く無いのです。それがお互いの為です」
 そこまで黙っていたエレーナが、スッと立ち上がりレイピアを抜いた。
 そして高く響く声で言った。
 「お前が何者でも構わない。だが、これだけは言っておく。私はヴァルファの人間が嫌いだ。サリシュアン、お前も嫌いだ。次に会ったら必ず殺す」
 それだけ言うと、彼女は踵を返して教会の奥へと消えていった。
 私は彼女と気が合いそうにも無かったが、彼女の意見には共感できた。
 私もエレーナが嫌いだった。
 ゼールビスがまた低く笑った。
 私は当初の目的を思い出し、ゆっくりとゼールビスの前まで進み、レイピアを抜いた。
 「質問がある」
 「おや。物騒ですねえ。そんなものを持ち出して」
 ランプの灯りがゆらゆらと私達を照らす。
 私ははやる気持ちを抑えて、冷静さを欠かないように聞いた。
 「ルシアの、氷炎のライナノールの装備品をどこにやった」
 その言葉にゼールビスの顔から、一瞬薄ら笑いが消えた。
 やはりこの男が一枚噛んでいた!
 私はレイピアを彼の喉元に突きつけた。
 「どこにある!」
 沈黙。
 ゼールビスは感情の宿らない冷たい目で私を見ていた。
 そしておもむろに声をあげて笑い始めた。
 その笑い声は狂気を孕んでおり、耳に不快だった。
 「ゼールビス!」
 私は思いっきりレイピアを突き入れた。
 しかしゼールビスは一瞬早くそれをかわすと、一気に間合いを取る為に飛び退いた。
 「突然の深夜の訪問、何事かと思えばそんな理由だったんですねサリシュアン」
 「貴様がルシアの装備品を盗んだのか」
 私はレイピアを構えなおし、臨戦態勢をとった。
 ゼールビスはいつの間にか、例の司祭杖を構えていた。
 「ふふふ、面白い、面白いですよサリシュアン!確かにあの剣と鎧は私が盗みました」
 
 
 To be continued


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