みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 ゼールビスは顔に気味の悪い笑いを貼り付けたまま、司祭杖でするどい突きを放った。
 私はそれを後に飛びのき、レイピアを構えつつ間合いを計った。
 「サリシュアン、知っていますか」
 ゼールビスは日曜のミサの最中のように、声高らかに喋りながら、また数度突きを入れてきた。
 「何を…」
 彼の放つ突きがどれも必殺の一撃で、油断すればすぐにでも天国へ行けそうだ。
 だが、私はこういう日の為に修練を積んでいたし、レイピアでそれを防ぐくらいわけもない。
 ゼールビスはまた狂気的な視線をこちらになげかけた。
 「私はヴァルファの中でも浮いた存在である事は、自分でも解っていましたよ。ですが、こう見えても一介のテロリストから実力だけで八騎将の座まで上り詰めたのです!」
 「戯言を!お前がキリングの甥でなければ、誰が八騎将になど…」
 「貴方に言われたく無いですね!サリシュアン!!」
 ランプの弱弱しい光と、教会の中という動きづらい空間での戦いは、想像以上に精神力を必要とした。
 その中でギラギラとしたゼールビスの殺気は、恐怖を感じるほどに鋭く、暗いものだった。
 「私は実力で地位を勝ち取ったにも関わらず他の八騎将は私を認めず、軍議でも無視されたものです!」
 「当然だわ!八騎将は誇り高き騎士の集まりよ!あなたの様な下劣な男、誰が認めると言うの!」
 「誇り高い?ふ、笑わせてくれますね!八騎将のうち二人は子供じゃないですか!」
 「コーキルネィファは優秀な騎士だわ!」
 「おや、ご自分のことは棚に上げるのですか」
 「一番格下の私に苦戦しているのは誰かしら」
 五、六合打ち合い、お互いまた距離をとって対峙した。
 すでに私は肩で息をしており、じっとりと汗をかいていた。
 それはゼールビスも同じようで、わずかに肩が上下していた。
 八騎将同士が剣を交える事など、普段はありえない。
 だが、驚くほどに実力が伯仲しているのは肌で感じていた。
 それはすなわち、ネクセラリアやボランキオ、そしてライナノールならばゼールビスよりも強いはずだ。
 こんな男に、ライナノールの魂が汚されていると思うと無性に腹が立った。
 「私と互角の戦いをしている…なんて思っていないですか?サリシュアン」
 ゼールビスはそう言って武器をおろした。
 私は闇雲に飛び込むのは危険と考え、そのままレイピアを構えていた。
 「もしも互角だと思っていたら、それは大きな間違いです。」
 彼は司祭服の懐に手を入れた。 
 何が出てくるか。
 ゼールビスならばここで銃を取り出してもおかしくない。
 しかし、彼が取り出したのは小さな円筒状の黒い箱だった。
 「ふふふ」
 彼はそれを無造作に床に落とした。
 瞬間、
 まるで真昼の太陽のような光で教会中がまばゆく輝いた。
 「せ、閃光弾」
 気付いた時にはすべてが遅かった。
 一瞬目の前が白くなり、なにも見えなくなってしまった。
 本能というか、反射的に横に転がりながら何かの陰に身を潜めようと回避行動をとる。
 が、受身を取って左手を床に着いた時、燃えるような痛みを感じた。
 「くうっ!」
 こらえたものの、思わず声が出てしまった。
 左の掌が、動かそうとしてもその場から動かなかった。
 手袋の中で液体が溜まるのを感じ、出血しているのが解った。
 目がまったく機能しておらず、自分がどういう状況なのかわからなかった。
 しかし、耳元でゼールビスの息遣いが聞こえ、全身に鳥肌が立った。
 「ここまでですね、サリシュアン。あなたの負け…です。」
 左手が焼けるように痛み、気分が悪く、冷や汗がとめどなく出てくる。
 吐き気と寒気で、自分が軽いショック症状なのがわかった。
 次第に目が闇に慣れていき、自分の左手が教会の床に司祭杖で磔られているのが解った。
 「美しいですよ、サリシュアン。まるで主神のようです。ふふふ」
 勝ち誇ったゼールビスの声に私はよりいっそうの嫌悪感を募らせた。
 
 
 
 To be continued


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