みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜

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 そこは、非常に懐かしい風景だった。
 祖国スィーズランドの我が家。
 春だろうか?暖かい日差しと、咲き乱れる花々。
 私はその花の中に座って、シロツメクサで冠を作っていた。
 すぐそこのテーブルで、お母様が優しい笑顔を浮かべながらお茶を飲んでいる。
 その脇にはキリングがやはり同じような優しい顔で私を見ている。
 いつか見た風景。
 これは私がまだ3つか4つの頃だった?
 私は出来上がった冠を高く掲げると、後ろを振り返った。
 そこには
 そこには笑顔で両手を広げるお父様の姿があった。
 私は駆け出し、お父様の大きな腕に飛び込もうとした。
 だが、急に足がもつれ転んでしまった。
 左手を着いた瞬間、激痛とともに手の甲から血が溢れ出した。
 「お、お父様!」
 そう叫び顔を上げると、ゼールビスがいやらしく笑っているのが見えた。

 その瞬間、私はハッと目を見開いた。
 すぐに目に映ったのは、真っ白な天井だった。
 そうだ。私はゼールビスとの戦いで負傷し、気を失ってしまったのだった。
 ここは、どこだろう。
 視線だけ動かし回りを確認すると、そこは小さな個室であった。
 私はベッドの上に寝かされており、脇にある点滴台から伸びた管が左腕に繋がっていた。
 左手は包帯でグルグル巻きにされていた。 
 起き上がろうとしたが、左手に激痛が走ったのと、体中にこわばりを感じて無理だった。
 どうにか上半身だけを起こし、改めて部屋を見渡した。
 簡素で飾り気の無い部屋だが、一面の白い壁は清潔感があった。
 窓が開いており、夏の日には珍しい風がそよそよとカーテンを揺らしていた。
 病院だろう。
 点滴台とは反対の隣側に、私の服が綺麗にたたまれて置いてあった。
 そこで初めて自分が患者用の白衣を着ているのが解った。
 「…無様ね」
 私は自分に対してつぶやき、レイピアを探した。
 どこにも見当たらない。
 まさか私のレイピアまでゼールビスが…
 そこまで考えた時、ノックも無しに入口のドアが開いた。
 「あら、気がつきましたか」
 そう言って入ってきたのは、どうやら看護婦のようだ。
 茶色いウェーブのかかったセミロングの髪が風に揺られていた。
 そして慈愛の天使である事を主張するように、明るい笑顔で私を見つめた。
 その後から背の高い女性が続いて入ってきた。
 彼女は銀色の髪を伸ばしているが、まるで寝癖のように撥ねていた。
 バンダナを額に巻き、慈愛の天使とは対照的に厳しく鋭い目をしている。
 着ている服と、わずかな記憶の片鱗から、彼女は気を失う前に見た馬車の御者のはずだ。
 看護婦が窓を閉め、私の顔を覗き込んだ。
 「気分はいかがですか」
 私は頷いて見せた。
 「あまりいい気分というわけでは無いわね。少し、喉が渇いたわ」
 「わかりました。今お水を持ってきますね、ちょっと待っていて下さい」
 そう言って看護婦は部屋をでていった。
 私は改めて御者を見た。
 御者も私を見て、わずかに微笑んだ。
 「気がついて良かった。あのまま死んじまったらどうしようかと思っていたんだ」
 「あなたが私を運んでくれたのね。一応御礼を言っておくわ」
 私の言葉に彼女は軽く口笛を吹いた。
 そしてにんまりと笑った。
 「いいね、あんた気に入ったよ。オレはジーン・ペトロモーラ」
 「ライズ・ハイマーよ」
 彼女は別段いぶかしむわけでもなく、サラリとした口調で話し続けた。
 「あんたが持っていた剣は、オレの馬車に隠してある。病院に見つかると何かと面倒だからな」
 その言葉に私はホッとため息をつきたかった。
 僅かであるが、心が軽くなった。
 「ありがとう、助かるわ」
 「あんた、何かワケありなんだろ?オレは医者にフェンネルから乗せたと言ってある。あとは適当にごまかしな」
 私は同意の印に軽く頷いてみせた。
 「お待たせしました!」
 そこに、明るい声でさっきの看護婦が戻ってきた。
 ジーンは壁際にもたれながら、私にウィンクをした。
 
 
 
 To be continued


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