みつめてナイト外伝〜ライズ・氷解〜
59
夏休みも終わり、街は秋の訪れに少しずつノスタルジックな雰囲気を纏い始めた。
日毎に暑さが和らぎ始め、毎夜の虫達のコンサートは勢いを増す一方だ。
ヴァルファはまたプロキアに雇われた。
馬鹿げた話だが、プロキア国内でまた内乱の兆しが起き、現首相フィンセン公は反乱派抑制の為に半ば放置していたヴァルファを再度雇い入れたというのだ。
まったく馬鹿げている。
傭兵は雇われれば何処でも戦う。
その方針に政治は絡まない。それが傭兵ではあるが、昨日までシンラギククルフォンを使いヴァルファを潰そうとしていたプロキアの手のひら返しは愚かで滑稽ですらある。
しかしヴァルファとて、現在駐在していたダナンから撤退したわけではないし、ドルファンとの緊張は続いている。戦争は終わっていないのだから。
ドルファンはプロキアとヴァルファがまた結託して攻め込んでくる事を大いに警戒しているはずだ。
もしかしたら先手を打ってダナンへの再再派兵を行うかもしれないが、つい先日3大隊を失ったのでそこまでの余力と勇気が軍部にあるとは思えない。
もう一度軍統合部に忍び込もうか。
そんな事を考えながら、私は少しずつ赤く色づく木々を横目に私は中央公園に向かって歩いていた。
街の様子を見たくて日曜の学生寮を飛び出したが、午前中にはあらかた見終ってしまったので、以前ヒューイと出掛けたフラワーガーデンを見に行く事にしたのだ。
あの戦場や現世とかけ離れた花の園は、思ったよりも気に入っていた。
昨日のウィークリートピックスには、ダリアという花が満開だと書いてあった。
ダリアがどんな花かは知らないが、きっとまた美しいのだろう。
正午にはフラワーガーデンの入口につくことができた。
いつ来ても人の少ないこのフラワーガーデンは、今日も私以外誰もいなかった。
そういった意味でもここは気に入っていた。
植栽で出来た生垣の入口を曲がると、目の前にまるで赤い絵の具を一面に塗りたくったような花の絨毯が広がっていた。
これがダリア。
思わず息を飲む美しさだ。
よく見ると、入口の近くには赤い花が並んでいるが、それぞれ仕切られたブロック毎に、ピンク、オレンジ、黄色、紫と本当にカラフルでついさっきまで歩いていた街並みが一気に褪めてしまうほどだ。
一色ずつゆっくりと楽しもうと思い、歩き始めた時、少し先の生垣の裏から沢山の花が舞い上がった・
不自然な舞い上がりだった。
風も穏やかな中花びらではなく沢山の花そのものが、まるで下から爆破でもされたように舞い上がるのだ。
生垣の裏で何が起きているのか。
私は若干の興味を覚え、ゆっくりとそちらに近づいていった。
そして少し距離を置きながら、そっと生垣を回った。
「ダブル・フラワーハリケーン!!」
そんな意味の解らない言葉を叫びつつ、一人の少女が沢山の摘み取ったダリアを一気に空に向けて放り投げた。
花は重力に逆らい一瞬空に食らいついたが、すぐに力を失いふわふわと落下し始めた。
落下する花達の中で少女は嬉しそうに笑いながらくるくるとダンスを踊っていた。
その光景は一種の芸術だった。
鮮やかな長い金色の髪を耳の少し後で二つに結び、ダリアに負けない真っ赤なワンピースを揺らしながら踊る姿は、まるで絵本で読んだ妖精のようだった。
ただ、妖精と呼ぶにはあまりにも大きすぎる。
どう見ても私と同じくらいの年齢だろうし、どう見ても子供ではない。
私は思わず呆気にとられて呆然とみつめてしまった。
彼女は花びらがすべて落ちてしまうと、満足そうに頷くと、その場にぺたんと腰を下ろした。
そして私に気付いて見上げると、まるで天使のような笑顔でこう言った。
「ね、素敵だね」
その声、その笑顔。
私は信じられない現実に、まるでハンマーで頭を殴られたような衝撃を感じた。
こんなところで、何をしている?
本物なのか?
それ以前にここで起きている出来事全てがあまりにも非現実的で、白昼夢でも見ているようだ。
私の頭がおかしくなってしまったのだろうか。
だが、彼女はお構いなしに立ち上がると、手にしたダリアを一つ私に差し出した。
「あなたもやってみる?楽しいよ」
私はそのダリアを受け取ると、声にならない声と溢れかえる複雑な感情を持て余しつつ、どうにか声をしぼりだした。
「プリシラ・ドルファン…!」
To be continued
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